縁 (34)ご対面!
お姉ちゃんは着替えを済ませ、くつろいでいる。さすがカリスマタレント・・・。制服姿が様になっている。私なんかホントに似合っていない。浮いている。スタッフの人にエキストラばかりいるところに連れて行ってもらって説明を受けた。ちょっと立っているだけじゃないじゃない!お客さん役の人にチケットを手渡す演技?そんなものをするらしいの。ほんの一瞬らしいけれど・・・。色々指導を受けながらリハーサル・・・。何とか様になったところで、主役格登場!!!
「榎本君入りま~~~す!」
といってパイロットの制服に身を包んだ男性が入ってくる。制帽被っているし、遠目でよく見えないけれど、背が高くてかっこいい感じ・・・。エキストラの人は皆口々に言う。
「あの子でしょ?超大型新人、榎本孝志君って・・・。」
「そうそう!プロフ見たけど、高2なんだって???見えないよね~~~~。」
もしかして孝志君????
うそ!!!
また背が伸びて・・・・大人っぽいじゃない!
孝志君は準備された椅子に座って、制帽を取り、コンテかなあ?何か見ている。そしてお姉ちゃんも入ってくる。
「仁科さん入ります!」
お姉ちゃんは孝志君横に用意された椅子に座って、孝志君となにやら楽しそうに話している。ちょっと嫉妬・・・。お姉ちゃんが私の方を指差し、孝志君もこっちを見る。そして目が合ったんだけど、すぐに孝志君ったら下を向いてしまったの。
全体リハーサルがあり、そして本番。何度も何度も繰り返し行われて飛行機で混雑する時間帯には本番終了。何度かだめだしされて、周りに笑われたりなんかして・・・。さあ制服を脱いで返さないとって思ってお姉ちゃんの控え室に入る。
「ただいま、お姉ちゃん、疲れちゃったよ!帰りに何か奢ってよ!!!」
といって部屋に入るとそこにいたのは・・・。なんとまだ衣装着たまんまの孝志君!!!私は一瞬固まって頭の中が真っ白になった。
「優希ちゃん、ご苦労様。似合うね、その制服・・・。将来こういう仕事したら?」
と、孝志君は前と変わらない微笑で私を見つめるの・・・・。
「孝志君、私のこと怒ってないの?」
「え?怒ってないよ。だって僕が悪いんだから・・・。色々美咲さんに聞いたし・・・。あ、どう?この制服姿。パイロットになるのも悪くないかな?」
ホント無邪気な笑顔の孝志君。ホントそのまんまの笑顔。気がつくとお姉ちゃんは部屋にいなかった。孝志君は制服のまんまの私を抱きしめて言ったの。
「ホント今までごめん。これから忙しくてなかなか会えないかも知れないけれど、もう一度、やり直せないかな?」
私は頷いて孝志君を見つめる。孝志君はそっといつものように優しく私にキスをしてくれた。ああ、これが私が求めていた感触。私の空っぽだった心が満たされていくのがわかる。
本当に孝志君の制服姿はますますパパによく似ている。パパじゃないの?って間違えるくらい。はあ・・・・このまま時が止まればいいのに・・・・。無情にも時間が私たちを再び引き裂いた。でも昨日までと違う。また平日の朝、いつものように顔を合わすことができるんだもん・・・。寂しくなんかないよね?