縁 (32)すれ違い | 超自己満足的自己表現

縁 (32)すれ違い

縁32  いつもの朝。私は早めに家を出た。孝志君の家ってどこなんだろう。大体のところしか知らない。携帯のほうに連絡入れたら済むことなのに、それが出来ない私・・・。何をきっかけにしてやり直せばいいの?今は10月。そういやうちの学校の学園祭がある。孝志君を誘ってみようかな。


「優希、どうかした?」
「ううん・・・先に行ってて。」


友達に先に行ってもらって、いつも孝志君とすれ違うところで待った。でもなかなか来ない。時間ぎりぎりになって遠目で見える孝志君のいつもの自転車をこぐ姿。でもいつもと違う筋で曲がってしまった。きっと私に会わないように通学ルートを変えたんだ・・・。そうよね。私、孝志君にひどいこと言っちゃったもん。しつこい人は嫌いって・・・。私が悪いのに・・・。



授業中も孝志君のことが気になって、休み時間に何度メールをしようか思ったけれど、どうしても勇気が出ない。会える訳ないのに、買い物のあと有栖川公園のブランコに腰掛けて、また携帯電話を眺める。ここに来れば孝志君に会えるんじゃないかななんて思っちゃった・・・。ホント私って馬鹿。一番大切な人なのに、それに気がつかないであんなひどいことを・・・。孝志君の気持ちなんてぜんぜん考えていなかった。



孝志君は海のデートの次の日、事故で連絡が取れなかったって言うのに、私は頑固になって、もう会いたくないって思って、ひどいことを言ったんだよね。いくら大阪に彼がいたって、あの時、孝志君の胸に飛び込んでいたら、やり直すことが出来たはずなのに・・・。



孝志君はかっこよくてやさしいだけじゃない。私の安らぎだった。そして癒しだった。松元さんのような楽しいデートじゃなくっても側にいてくれるだけで心が満たされた。それに気がつかなかった私って本当に馬鹿よね。


 私はトボトボ家路に着く。もう日は陰って、薄暗い。早く帰って夕飯作らなきゃと思いながら、広尾駅前の交差点で信号待ち。するとフッと持っていた買い物袋が軽くなる。振り返るとパパだった。いつもパパは車通勤なんだけど、今日は年に一度の適性検査で、羽田近くにある訓練センターに行ってたんだ。


「優希、重いだろ?持ってやるよ。」


ホント、パパの微笑む顔は孝志君に似ていて、同じオーラを感じる。偶然なのかな・・・。孝志君が大人になってこれくらいになったらこういう感じなのかな?


「優希、松元君と別れたらしいね。お前が傷つく前に別れてよかった・・・。」
「うん・・・。」
「でも元気がないね・・・。どうかしたのか?」
「ううん、何でもない。」


パパにいえないよ・・・。好きな人とのすれ違いで悩んでるなんて・・・。頑固なくせに勇気のない私・・・。それ以上パパは私に何も聞かなかったけれど、心配そうな表情で見つめてくれていた。そして最後に一言。


「あのさ、優希。好きな人が出来たら、きちんとパパに紹介してくれよ。松元君と付き合う前にも好きな子がいたんだろ?きちんと紹介してくれるんなら、パパは何も言わないよ・・・。ただし、はじめはお友達としてだぞ!何度かパパやママと会話や食事を一緒にしてから、ちゃんと恋人として認めてやるからいいね。」
「うん・・・。」
「なかなかパパとママは家に居ないけど、家に連れてきなさい。高校生らしいお付き合いをするんだよ、いいね。」


はははは・・・パパったら・・・。心配性なんだから・・・。