縁 (26)通学路
怪我のほうはずいぶん良くなっているのは確かなんだけど、自転車に乗れるかどうか心配だった。お爺ちゃんは学校まで車で送るって言ってくれたけれど、そんなことしたら優希ちゃんと通学路ですれ違うことが出来ない。僕はいつもよりも早めに出ていつもすれ違うあたりで自転車を支えながら立っていた。続々とすれ違う優希ちゃんと同じ学校の生徒たち。僕は優希ちゃんの姿を探した。するといつもの時間に現れる優希ちゃん。声をかけようと一歩足を踏み出した時に聞こえる言葉・・・。
「え!優希、大阪に彼氏がいるの?遠恋してるの?いつから??」
「もう半月かな・・・。お爺ちゃんの後援会のパーティーで知り合っちゃった。二十歳の大学生なんだけど、お父様は世界的に有名な電化製品会社の社長さんなの。今度紹介するね。週末うちに遊びに来るから。」
え?優希ちゃん・・・。僕が入院中に彼氏が出来たんだ・・・。それも親公認で・・・。僕はショックで痛い足を我慢しながら自転車をこぐ。美咲さんはそんなこと一言も言っていなかった・・・。嘘か、ホントか?僕は美咲さんのメルアドにメッセージを入れる。
『優希ちゃんに新しい彼氏が出来たって本当ですか?』
と・・・。するとすぐに返事が・・・。
『そうみたいね・・・。昨日優希に聞いちゃったのよ。お爺ちゃん公認だから、パパも文句言えないらしいわ・・・。残念だけど、しょうがないよ・・・。もちろん遠藤君の気持ちは伝えておいたわよ。』
その返事に僕は愕然とした。僕が悪いんだ。優希ちゃんを傷つけておいてやり直そうなんて図々しい・・・。でも優希ちゃんの事が忘れられなくて、毎日同じ時間に同じ場所で優希ちゃんが通り過ぎるのを見届けてから学校へ急ぐ。優希ちゃんはきっと気がついているはずなのに、目をあわそうとしない。
「優希、優希。例の麻高の人、またいるよ。付き合っていたんじゃないの?」
「知らない、あんな人・・・。しつこい人は嫌いなの。」
そっかしつこいか・・・。
そうだよね・・・。
まるでストーカーみたいだよね・・・。
もう優希ちゃんと寄りを戻そうなんて思うのはよそうなんて考えるようになってきた。