縁 (23)古い名刺 | 超自己満足的自己表現

縁 (23)古い名刺

 半月後、無事退院して、お婆ちゃんちに帰ってきた。病院にいたから、優希ちゃんに連絡さえ出来なかった。そしてあの事故のせいで、携帯が破損・・・。優希ちゃんの電話番号も、アドレスも消えてしまった。きっと優希ちゃんはますます僕を嫌うんだろうな・・・。


縁23  あと10日で夏休みが終わる。宿題もまだ残っている。学校に連絡を入れて、事情を説明してくれたお爺ちゃん。免除ということはないけれど、宿題は待ってくれるという。学校が始まるぎりぎりまで石川でお世話になることになった。湯治も兼ねて温泉につかりながら優希ちゃんのことと、僕のお父さんが誰なのか、そればかり考えていた。もちろん宿題が手につくわけない。どうやったら自分の生い立ちを知ることが出来るのだろうか。父親を探すのは?父親はどんな人なんだろう・・・。お爺ちゃんお婆ちゃんは僕の父親を知っているのか?疑問ばかり浮かんでくる。



母さんはずっとこの加賀にいて僕の身の回りの世話をしてくれている。東京にいるよりもいい顔をしている母さんの顔。きっと父さんの束縛から解放されて生き生きしている。僕は冗談で母さんに言ってみる。


「母さん、ずっとここに住んだらいいのに。僕はかまわないよ。東京じゃなくても。」
「え?どういうこと?」
「なんでもないよ。母さん、いい顔しているから、ここにいるほうが幸せなんじゃないかなって思って・・・。」


母さんは苦笑。また母さんに聞けずじまいで・・・。


 母さんが買い物に行っているときにだめもとで色々家中を探ってみる。母さんが使っていた部屋から始まり、仏壇まで・・・。仏壇の小さな引き出しにある名刺を見つける。結構古い。そこにはこう書かれている。


「N航空 成田空港支店 運行乗務員部  副操縦士 源孝博」


この航空会社って、母さんが以前勤めていた会社。どうしてここにこんな名刺が入っているんだろうなんて考えながら、もしかしてと思って僕のポケットに忍ばせる。他のいろんなところを探してみたけれど、これ以外はこれといって見つからなかった。


 自室へ戻ってベッドに寝転んでこの名刺を眺めてみる。裏にはうっすらだけど携帯番号か書かれている。結構古いから掛けたってつながらないだろうね。源孝博か・・・。孝博の「孝」は僕の「孝」と同じだ・・・。ピンとこの人が僕の父親なんじゃないかなって思ったんだ。母さんならきっと好きな人の名前の一字をつけると思うから・・・。僕はこの名刺を財布に入れて鞄にしまいこんだ。