縁 (6)共通点
『孝志君へ 今度の日曜に会えそうです。映画でも見に行かない? 優希』
と優希ちゃんからメールが入った。実は初デートになる。実は付き合っているといっても学校の行き帰り声をかける程度。あとは電話かメール交換のみ。今週、父さん母さんは地元石川の後援会の会合に行っている。この前お爺ちゃんが彼女を家に連れて来いって言ったからさ、家に来てもらおうと思った。でも父さん母さんが帰ってくるのは夕方。父さんに僕が恋愛していることを知ったらきっと怒ると思う。だから優希ちゃんにメールで『うち来る?お爺ちゃんがね、優希ちゃんに会いたいって言うんだ。』って入れてみる。すると時間がたってかえってくる。
『え?いいよいいよ、お邪魔だもん。また今度でいいかな?』
って返事。まあいいか・・・優希ちゃんは映画に行きたいんだもんな。今度にすることにした。おじいちゃんは残念そうな顔をしていた。まあしょうがないよね。まだ付き合って日が浅いし、デートだってしたことはない。キスだって初めてのとき以来してないし・・・。
優希ちゃんと渋谷のハチ公前で待ち合わせ。優希ちゃんは、可愛い格好でハチ公前で待っていた。
「ごめん、待ったかな・・・。」
「ううん。私も今来たところだから・・・。」
そういうと僕は優希ちゃんの手を握り、映画館へ。優希ちゃんが見たい映画を見て、ランチをご馳走する。はじめ優希ちゃんは割り勘でいいといったんだけど、こういうのって男がするもんだと思ったから、僕が全額払った。本当に楽しいデート。優希ちゃんも楽しそうに笑っている。来て良かったなあなんて思った。
帰りの地下鉄の中で、色々話した。
「え?孝志君のお父さんって政治家なの?じゃあ私のお爺ちゃんのこと知ってるよね、きっと。お爺ちゃんは私が生まれた時に総理大臣をしてたんだって。ホントびっくりなの。おうちでは結構のんびりしたお爺ちゃんなんだけどね。」
「え?そうなんだ・・・。じゃあ、僕のお爺ちゃんの事も知ってると思うよ。その頃お爺ちゃんは官房長官をしていたって聞いたよ。へえ・・・日本って狭いよね。」
お互いの共通点を発見。弐條ってあの有名な弐條だったんだ。変わった名前って思ったけど・・・。
「じゃあ孝志君は大人になったら政治家になるの?」
「うん、まあね。お爺ちゃんはこの僕を、正式な後継者にしたいらしいよ。」
「え?お父様は政治家なんでしょ?」
「うん、そうだけど、父さんは婿養子だし、出来れば直系の僕を後継者にしたいらしい。まあ言えば、父さんは僕が大人になるまでの代理と思っているようなんだ。優希ちゃんは?何になりたいの?」
「わかんない。まあ言えば、結婚したら専業主婦でいいなって思っているの。だってね、うち共働きでしょ?子供がかわいそうだから、子供が出来たら出来るだけ側にいてあげたいの。」
ふ~~~ん。そうなんだ。結構古風な感じなんだ。優希ちゃんって。
僕は優希ちゃんの住むマンションの前まで送る。優希ちゃんの家は広尾の低層マンションの最上階の角部屋らしい。裏には聖心女子大がある。優希ちゃんは高校を卒業したらこの女子大に通うのかな?マンションの前だから、抱きしめたりキスをしたりなんかは出来ないけれど、お互い手を振って別れる。
「ありがとう、孝志君。とても楽しかったよ。また明日通学路でね。」
「うん。また会える日がわかれば知らせてよ。」
「わかった。じゃ。」
本当に可愛い表情でマンションの玄関を入っていく。