縁 (5)携帯電話
昨日、優希ちゃんに告った。返事はOK!優希ちゃんは家庭の事情でいつも会えないようだけど、朝は顔を合わすことが出来る。
いつもの時間、いつものところで、優希ちゃんとすれ違う。数人の友達と通学する優希ちゃんは僕の顔を見て顔を赤らめそっと手を振る。もちろん僕も・・・。昨日、優希ちゃんとキスをした。告ってすぐのキスっていけないかなあなんて思ったけれど、なんとなくいい感じだったから・・・。
「優希、何?あの男の子っていつもの麻高の人でしょ?」
「う、うん・・・。」
「もしかして付き合っているの?」
「え?内緒。」
じゃれあいながら高校へ向かっていく優希ちゃん。かわいいよなあ。
携帯番号とメルアドを交換したから、学校にいるとき以外はメール交換。家に帰っても部屋にこもってメールそれか電話。いつも自宅に戻ったらリビングにいることが多かったから母さんは部屋に籠もりっきりの僕を心配している。
「孝志、ごはんよ。」
「後でいい。」
「ちょっと、孝志。勉強でもしてるの?」
「まあそんなもん。」
「そ、早く来なさいよ。」
と、母さんは呆れた様子で部屋の前を立ち去る。まあキリがいいところで部屋を出てダイニングへ行く。もちろん携帯持参。テーブルについても携帯を側において優希ちゃんからの返事を待つ。母さんのおいしいご飯を食べている途中も携帯をチラチラ見ながら食事するもんだから、母さんは機嫌が悪い。
「孝志、お父さんがいたら叱られるわよ。これから携帯を食卓にまで持ってきたらだめよ。お父さんに言われたでしょ。食事に集中しなさいって。」
「んん・・・。」
すると優希ちゃんからの返信メールが入った。特に重要なメールじゃなくって、ゆっくり会えない分、くだらない世間話をしているというかね。
「孝志!いい加減にしなさいよ!」
と母さんが怒る。お爺ちゃんは苦笑しながら言うんだ。
「いいじゃないか。芳樹君がいない時ぐらい好きにさせてやれ。」
「でも見てよ、お父さん。孝志の携帯代、今月いくらだと思う?今まで1万いかなかったのに2万よ2万。きっと来月はもっとよ。」
「いいじゃないか。楽しいことでも出来たんだろ?勉強のいい息抜きでいいじゃないか。孝志の携帯代や小遣いはこの私が出しているんだし。そうだ、孝志、今度お前にクレジットカードを作ってやろうな。これから色々欲しいものとか出るだろ?いちいち芳樹君に聞いていたら買えないじゃないか。」
「お父さん!孝志を甘やかせないでよ。」
「いいんだ。孝志は大学卒業したら、誰かの秘書にでもなって政治家の修行をしてくれる約束だし、25になったら芳樹君に代わって私の選挙区から出馬させる。まあ言う孝志に投資しているんだよ。」
本当に激甘のお爺ちゃん。まあ僕が物心つく前から、この僕を政治家にするために一生懸命教育してきたんだからね。政治家になることは嫌じゃないしね。爺ちゃんは僕に彼女が出来たのを知っているのかな?なんかそんな口ぶり・・・。
数日後、お爺ちゃんは、お爺ちゃん名義のクレジットカードの家族カードを持って部屋にやってきた。なんとプラチナカード。
「なあ孝志、無駄遣いはいかんぞ。よく考えて使うがいい。」
「んん、わかってる。」
「孝志、好きな子でも出来たんだろ?付き合っているのか?」
「んん、6月から・・・。もうすぐ1ヶ月かな・・・。」
「一番楽しい時期だね。でもな、勉強はきちんとしろよ。成績が下がっていたら芳樹君に叱られるぞ。東大に行け。それか早慶。いいな。そうそう、今度彼女をうちに連れておいで。きっと面食いだったママに似てお前もきっといい子を選んだんだろうね。」
「んん、またね。」
やはりお爺ちゃんはわかっていたんだ。応援してくれているみたいだし、今度父さんがいないときにでも連れてくるかな?