縁 (1)新学期
と、母さんが僕を起こす。
今日から新学期。僕は元麻布にある私立高校に通う高校2年の遠藤孝志。16歳。普段うちの高校は制服があっても自由なんだけれども、今日のような始業式や、行事の時には制服を着用しないといけないんだよね。たまにしか着ない制服をクローゼットから取り出して、身支度をする。
「おはようございます。お父さん。」
「んん・・・。」
いつものように厳しい顔をして新聞片手にコーヒーを飲む父さん。決してこの僕と目を合わそうとはしない。僕の父さんは石川県選出の衆議院議員。まあ世に言う代議士。僕のお爺ちゃん遠藤春樹の私設秘書をしていた人で、母さんと16年前に結婚。6年前にお爺ちゃんの跡を継ぎ、当選。当選2回目の議員の47歳。婿養子。昔から仕事柄忙しいのか、あまり僕の相手はしない人で、親子でどこかへ行った記憶はない。もっぱら出かけるとしたら母さんかお爺ちゃんとだった。お爺ちゃん子だったこの僕。
「おはよう、孝志。今日から2年だな。もうそろそろ受験を考えないといけないよ。」
「はい、お爺ちゃん。そろそろ決めます。」
うちはお爺ちゃんを筆頭に、父さん、母さん、僕の4人家族。父さんと母さんの間には僕一人。無口で僕に対して愛想悪い父さんと、いつも朗らかで、やさしくて、元CAの綺麗な母さん。どうしてこの両親が結婚したのかは疑問に思うときがある。なんていうのかなあ・・・二人の間には何かあるような気がするんだよね。時折夫婦って感じじゃないときがある。特にこの僕の事に関しての話になるといつも優しい母さんは喧嘩ごしになる。
いつものように朝食をとり、かばんを持つ。僕が家を出るまでには父さんは迎えに来た秘書と出かけている。父さんがいなくなると母さんの表情は豊かになる。それがどうしてかなんてわからないんだけどね。まあ僕の場合も、父さんの前できちんとした言葉を言わないと怒鳴られるか、機嫌が悪ければ殴られる。昔から相当躾に厳しかった。というか、お爺ちゃんがいないところでは虐待に近かったかも・・・。
「じゃあ、母さん行ってきます。」
「今日はお昼まででしょ?」
「ん~~~どうだか・・・。基本はそうだけど、昼から何かあったら学食で食べるからいいよ。また電話するよ。」
僕が住んでいるのは、白金にあるマンション。北里大学や聖心女子高があったりするところの近く。自転車で学校まで20分ぐらいかなあ・・・。明治通りや南麻布、有栖川宮記念公園を抜け、愛育病院裏の学校。中高一貫の超有名私学。進学校であり、昔から政治家のご子息やら、有名人のご子息が通うといわれている男子校。もちろん中学から通っている。自宅が聖心の近くだから、通学途中に行きかうお嬢様系の女生徒たち。ちょっと綺麗な子に恋心なんか抱いたりなんかしたこともあるけど、今のところこれといって特定の彼女なんていない。