四神降臨 第3章 覚醒の兆し (3)帝の考え
都中は右大臣の要求の噂で持ちきりである。
(聞いたか、右大臣殿は元斎宮の姫宮様を御所望だそうだ。)
(聞いた、聞いた・・・。まあ、あの姫宮も三十路になってもいまだ嫁がれていないのだから、良いのではないか?)
(姫宮と引き換えに引き続き帝の後見と、東宮の後見を申し出たそうだよ・・・。)
(東宮の後見は関白近衛殿と聞いていたが?唯一の姫君を東宮に入内させると・・・。副臥役の姫だしなあ・・・。)
関白はゴホンと咳をして殿上し、帝の御前に平伏し、帝に申し上げる。
「右大臣の件、私の耳に入ってまいりました・・・。どうなさるおつもりでしょうか・・・。東宮の後見に関しては当家近衛家だけではなく、他の五摂家、九条、二条、鷹司、一条家が協力し、責任を持ってさせて頂きたいと申し上げましたが・・・。」
「んん・・・わかっておる・・・。しかし・・・私に右大臣殿の後見がなくては東宮に譲位することも出来ない。だが、姫宮をあのような者に与えることなど・・・。」
帝は関白を御簾の中に入れ、小声で話し出す。
「関白は存じておるように、姫宮は東宮の母。しかし、何故あの者はまだ若い姫宮がいるというのに三十路になった姫宮を欲しがるのだろうか・・・。姫宮の妹宮達はみな姫宮に負けず劣らず美しく成長した姫宮たちばかり・・・。それなのにどうして・・・。」
帝は右大臣の要求が不思議でならなかったのだ。もちろん関白も同じなのである。
「関白殿、あなたの東宮後見の話は存続していただきたい。もちろん半年後の姫君入内もそのまま・・・。関白殿・・・。姫宮の件に関してはもう少し考えてみようと思う・・・。麻耶姫のお妃教育・・・頼みましたよ。おお、そうだ。東宮が姫君を気にいったようであるから、佳い日を選んで御所に遊びに行ってはどうか?きっと東宮も喜ぶであろう。東宮妃として決まったも同然なのだから。」
「御意・・・。」
関白は平伏し、近衛家の姫君麻耶姫の入内のための準備を改めて始めたのである。