四神降臨 第3章 覚醒の兆し (1)魔王殿上
この時代、公家、特に皇室は財源が乏しく、帝でさえ後見は大大名という時代である。特に正親町帝はある武将を後ろ盾とし、位に就いていたのも同然であった。
その武将こそ、「第六天魔王」。この日は東宮の元服祝いに訪れる。
「右大臣殿、殿上にございます。」
「うむ・・・。殿上許す。」
右大臣(魔王)は清涼殿の御簾の前に座り、軽く頭を下げる。右大臣の周りには異様な空気が流れている。
もちろん横には守護龍龍磨と、白虎の安倍西斗が控える。龍哉は右大臣と目が合い、何故だか知らないが、異様な気分に襲われる。もちろんそれは守護龍龍磨も同じ・・・。
「東宮、御簾の中に入りなさい。」
「はい・・・。」
龍哉は帝の側に座り、帝に挨拶をする。
「帝、あの男は?」
「初めてだね・・・。あの男は右大臣の織田殿だよ。私の後見をしていただいている。滅多に殿上して来ない者でね・・・。私も久しぶりなのだよ。今日は東宮の元服祝いに殿上してきたらしい・・・。」
「そうですか・・・。」
龍哉はじっと右大臣の顔を見つめる。もちろん右大臣(魔王)は自分の邪気を消している。
「東宮和仁様。御目にかかれて光栄でございます。先日は元服おめでとうございました。本日はお祝いのほかに、今後の後見についてのお話を・・・。」
「右大臣殿、後見とは・・・?私のことですか?それとも・・・東宮?」
「もちろんどちらともでございます・・・。」
「東宮は近衛殿が後見すると申し出てくれたよ。先日の元服の折も近衛殿が加冠役を・・・。」
「今の五摂家に何が出来ようか・・・。五摂家いちの財力を誇る関白近衛殿とて・・・わが織田家の財力には到底・・・。」
そういうと右大臣は大きな声で苦笑する。
「ただし、御二人の後見には条件がございます。」
「条件とは?」
「主上の大切にしておられるものを頂きたい・・・。元伊勢斎宮の内親王を・・・。」
そして右大臣の顔色が変わり、甲高い右大臣の声から、一変なんともいえない恐々しい声に変わる。
『青龍、龍王寵愛の姫宮を・・・。ふふふふ・・・・。』
もちろんその声は人間には聞こえない。その声を聞けたのは守護龍龍磨のみ・・・。
すると安倍西斗の胸元に控えている式神が騒ぎ出す。安倍西斗はわけがわからず式神を制止する。制止できずに安倍西斗の前に現れる白狼。この白狼は西斗が生まれた時より仕えている式神。その白狼は右大臣に向かい唸りだす。
「白老!控えよ!恐れ多くもここは主上の御前!白老!」
『西斗、この者・・・。人ではない!』
「何をふざけたことを・・・。白老、お前も年老えたな。どうみても・・・。控えよ!」
白狼は後ろに下がり、西斗の胸元に消えてもまだごそごぞと落ち着かないのである。
右大臣は立ち上がると、帝に言う。
「まあ急ぎませんので、よくお考えの上、ご返答を・・・。三十路の未婚の姫宮を頂きたいというのですから、悪い話ではありませんがね・・・ふふふふ・・・。」
右大臣は東宮侍従の守護龍龍磨、安倍西斗をにらみつけると、清涼殿を後にする。
つづく