四神降臨 第1章 予言 (11)玄武の姫君
『泉の湧き出(いずる)側。玄武の選ばれし幼き姫君に宿る。その者、生と霊を兼ね備える姫君なり。』
ある冬の日、神の声を書き記す式神によって知らされる。
陰陽頭はいつものように中務省に報告する。中務卿宮は首をかしげ、考える。
「湧き水の出る泉?その近くにいるという姫とは・・・。」
「たったひとつ都にございます。」
「どこ?」
「清水が湧き出る泉を持つ邸が・・・。何度か清水を頂きに参ったことが・・・。それは五摂家関白近衛殿の一条邸・・・。」
「そういえば近衛殿には御歳三歳の姫君がいたね・・・。確か・・・。麻耶姫。これで三神揃ったわけか・・・。あと一神。」
「いえ、陰陽道では五行・・・。言い伝えでは四神揃った後に四神の長、黄龍が現われ乱れを封じ込めると・・・。」
近衛家唯一の姫君麻耶姫が庭先で遊んでいる。まだ幼き3歳の麻耶姫。小春日和の温かい日差しを受けて、伸び伸びと育っている。
可愛らしいその姫君は清水が湧き出る泉の側で遊んでいた。ふとした拍子にその姫君は泉の中に落ちてしまった。
「キャ~~麻耶様!!!」
着ている着物が水分を吸いずんずん重くなる。そしておぼれる姫君・・・。そして沈んでいったのである。
お付きの者たちや警備の者たちは姫君を助けようと必死になるが見つからず、諦めかけた頃、泉が光り気を失った姫君が現れる。
獣の背中に乗せられた姫君。その獣の姿はこの世のものとは思えないものであった。亀のようであり蛇のようである。その獣は姫君をそっと地面に寝かすと、姫君の顔を覗き込んだ。
ゴ~~~~~!!
獣はなんとも言えない声で吠える。そして姫君の体の中へ消えていくのである。
姫君の胸には黒の勾玉。この不思議な現象に驚く邸の者たち。姫君の父、関白は姫君に駆け寄り姫君を抱く。
「麻耶!」
冷たくなった体が徐々に温かくなり、顔色がよくなってくる。姫君は気がつき、何がなんだかわからない表情で父君にしがみついた。
「父さま・・・。」
「今の獣はなんだったのか・・・。あれはもしや・・・。」
関白は玄武神社の祠に使いを出し、あれはもしや玄武ではないかと、真意を確かめる。
従者が持ち帰ったお札に書かれた玄武の絵はまさしく先ほど姫君の体内に消えていった獣そのものであった・・・。
つづく・・・。
第1章 予言 (完)