うまのきもち~ある競走馬物語 (9) 宝塚記念!!!
何とか宝塚記念にエントリー完了ってことで、そのレースに向けて調教をがんばっているんだ。
初めてのGⅠさ・・・。
オーナーのおっちゃんは気合入っちゃってさ、休みになると僕の顔を見に来る。そして大好物の甘いニンジンを置いていってくれる。
相変わらず竹下悠はレース中以外はおかしい・・・。
溜め息ばっかり・・・。
この前の妹が優勝した桜花賞もオークスも竹下悠の初恋の人が来ていたもんだから、余計に溜め息だらけ・・・。
相手は結婚してるんだろ・・・。
そろそろ諦めろよって感じ・・・。
そしてレース当日のことなんだけど・・・。朝一番に僕の厩舎にやってきて僕を撫でてまた溜め息・・・。
「はあ・・・また彩ちゃんが来るんだ・・・。今日はオーナーさんと一緒なんだよねぇ・・・。旦那も来るのかなあ・・・。GⅠだしなあきっと来るだろうね・・・。」
来ても来なくったってもいいじゃないか・・・。
どうせ竹下悠の恋なんて叶うわけないよな・・・。
また溜め息をついて立ち去っていったんだ。
それと入れ替わりで、例の姉ちゃんが入ってくる。そして厩務員さんと何か話すと僕のところへ・・・。
「カミカゼ・・・久しぶりね・・・。今日は大丈夫そう?」
ぶるるる・・・。
姉ちゃんは僕をそっと撫でてくれる。ホントやさしい微笑で・・・。
「和気さんのお父さんのために今日はがんばるんだよ・・・。きっとカミカゼなら勝てるよ・・・。じゃあがんばってね・・・。」
って言って僕に大好物のニンジンをくれたんだ。
そしてパドック!僕は緊張して固くなっていた。だってさあ、みんなGⅠホースばかりで・・・。僕なんかまだひよっこ・・・。厩務員さんが首元をそっとたたいてくれて、落ち着かせてくれる。
今日は厩務員さんいいカッコしている。
やはり宝塚記念だからだよね・・・。
もちろん厩務員さんもはじめての大きなレースだからね・・・。
緊張している。
あ、オーナーのおっちゃんだ・・・。
そして姉ちゃん。その隣がおっちゃんの息子か・・・。
姉ちゃんと仲良く話しているんだもんなあ・・・。
ホント姉ちゃんの嬉しそうな顔といったら・・・。
すると竹下悠が僕に乗ってパドックを回る。
竹下悠はじっと姉ちゃんのほうを見ているんだよね・・・。
溜め息ついて・・・。
ホントならパドックに入ると人が変わる竹下悠・・・・。
今日はなんか変だ・・・。
ずっと溜め息ついて気合いのかけらもない。
やばいぞこいつ・・・・。
僕は鼻を鳴らして竹下悠に気合を入れてみるんだけど、まったくだめ・・・。
上の空って感じで・・・。
ファンファーレを聴くときっと普段の竹下悠に戻るかと思ったんだけどさ、まったくその気配がないままゲートイン。
おい大丈夫か!!!竹下悠!!!
そう思っているときにゲートが開く。
しまった!!!出遅れた!!!
やっと出遅れたことに気づく竹下悠。
僕は随分遅れてのスタートになった。