ドリーム・クエスト (28)公になった二人の関係 1
1日目の挙式兼撮影を終え、俺と彩子はホテルにたどり着く。
疲れたけれど、今日は両家みんな揃っているから、夕食は両家会食となった。
俺の家族は父さん、母さん、兄貴夫婦、姉貴夫婦、そして弟の敏明。
彩子の家はお兄さんは自衛隊演習のため来れなくって、お父さんと彩子のお姉さんとその夫同僚の弐條。
うちの母さんが出席してくれるなんて信じられなかった。ずっと俺たちの関係を反対していたのに。
敏明が説得してくれんやろか・・・。
母さんは機嫌よさそうに彩子と話していた。
ひと安心だな・・・。
いろいろな和やかな雰囲気で会食が進んでいく。
「泰明君、春からは南麻布のマンションに彩子と住みなさい。」
と、彩子のお父さんは言う。彩子のお父さんは3月24日付で陸上自衛隊を定年退官する。そして神戸の家におばあさんと一緒に住むというのだ。
「ローンは完済しているし、あとは管理費とか固定資産税を払うだけだから安心していいよ。もちろん名義は泰明君に変えるから。ま、2人の結婚祝いかな・・・。」
ホントにお父さんには感謝せなあかんな・・・。
ま、会期が終わるまで議員宿舎にいるとするか・・・。
二階堂と同居やしな・・・。
次の日は例の衣装を着る。
和気家代々の平安装束。
彩子は朝早く起きて髪を黒く染め、ストレートにする。
撮影場所は京都でも有名な神社の境内。
何とか無理を言って撮影の許可を得たらしい・・・。
社務所を借りて着付けてもらう。
今日は父さん母さんが見守っているんや。
ホント彩子の十二単は本式なので相当重いと聞いた。
俺も普段着ない束帯を着付けてもらいながら、父さんと話していたんや。
「泰明、お前がきちんと和気家の慣例を守ってくれるとは思わなかったよ。こうして泰明の束帯姿を見れるなんてな・・・。ホントいいものだ。」
着付ける人はうまいのか全然苦しくない。
準備が整うと、撮影場所に・・・。
するともう彩子は撮影場所に立っていた。
ああ、これは夢でみたことがある・・・。
京都に墓参りに来たときにみた昔の夢・・・。
彩子は撮影用に敷かれた赤い敷物の上に立ち、スタッフによって、きれいに写るように裾などを整えられている。
ホントに要望通りの垂らし髪に冠をつけた古式のスタイル。
もともと彩子の髪は肩甲骨下まであるので、それより下は付け毛。
彩子の白い肌に真っ赤な紅をつけて、どう見ても平安時代のお姫様って感じ・・・。
さすがモデルのプロだ。
重いはずなのにそんな表情など見せていない。
彩子は俺の束帯姿を見て微笑む。
俺はそっと彩子の側に立って背筋を伸ばす。
そして彩子の顔を見て微笑む。
今日は日曜日だから、観光客が多い。もちろん外国人御一行も多いんだよね・・・。
突然の束帯と十二単の撮影にみんな足を止め、写真を撮る。誰もここにいち代議士と、人気タレントが婚姻写真を撮っているなんて気づかないだろうね・・・。
俺は杓(しゃく)を持ち、担当者に言われたようなポーズをとる。
時折風で動いた裾や髪などを直しにスタッフがやってきて直していく。
そして撮影が始まる。
カメラの後ろにいる父さんと母さんは俺たちの晴れ姿に涙ぐんでいる。
そしてたくさんの人人人・・・。
宮司さんもやってきて、嬉しそうにうなずいている。
「はい!お疲れ様でした!!!」
カメラマンが声をかけると、彩子は大きく息をして顔をゆがめる。
そしてスタッフからの大きな拍手。
つられてギャラリーまで。
「ああ終わった!!!重かったあ!!大変だね・・・昔の人は・・・。」
「いつもじゃないよ・・・。こんなの着るの・・・。」
「和気さんかっこいいよ・・・。似合うよね束帯。」
「彩子もホントに平安時代のお姫様のようだよ。」
もったいないから、二階堂にスナップ写真をいっぱい撮ってもらった。
二階堂はとても満足そうに俺たちを見てたよ。
時間かけてきつけたのにもう着替えないといけないんだよね・・・。
母さんも彩子の控え室で彩子の十二単姿をいっぱい撮っていたらしい。
もちろん俺も控え室で数枚撮ったよ・・・。
着替え終わると俺はスーツに着替えて、緊張のため忘れていたんだけど、宮司さんに名刺を渡して今日のお礼を言った。
もちろん俺の名刺を見て驚いていたんだよね・・・。代議士なもんで・・・。
彩子も着替え終わり、染めた黒髪を揺らしながら俺のところに走ってくる。そして俺の腕を掴んだ。
「終わったね!和気さん!これから何するの?」
「お昼食べてさ、昨日と今日の写真を選びに行こう。」
今はいいよね・・・デジカメだもん。すぐのパソコンとかで見る事が出来る。マスコミとかに結婚報告の写真を配らないといけないからね・・・。
「今日帰るんだよね・・・。もう1日和気さんと京都にいたかったな・・・。」
「しょうがないだろ、明日は議事堂に行かないと。通常国会の会期中だから・・・。」
「ああ残念・・・。また会えなくなるの?」
「ううん・・・。堂々と議員宿舎に来るといいし、俺も南麻布のマンションに行くよ。」
彩子は満面の笑みでこの俺に飛びついた。
「さあ行くぞ。」
父さんが俺たちに声をかけ、神社を出た。
ランチのあとは二階堂の実家の会社に言ってうちの両親と写真を眺めながら、ああでもないこうでもないといって写真を決めていく。さすが彩子はプロだ。失敗した顔などない。
マスコミ用にはお気に入りの昨日の写真を使うことにした。
一番きれいで微笑ましく写っているんだ。
一番俺たちらしい笑顔の写真。
「二階堂さん。今回の請求書は二階堂に渡してください。改めてお振込みを・・・。」
「いえいえ・・・いりませんよ。今回は来年に向けてのモデル撮影を前提にしたのですから・・・。宣伝費用と思えば安いもの。特に北野彩夏さんのモデル費用なら相当かかりますからね・・・。ギャラを差し上げたいくらいですよ・・・。」
なんと無料だって???
なんか法律に引っかからないだろうか・・・。
ちょっと心配・・・。
帰ったら六法全書を見ないと。