ドリーム・クエスト (16)和気泰明の惚気すぎ!
俺は昨日彩子にもらったポスターやチラシを持ってマンションを出た。ラッシュに巻き込まれてしわがいくのが嫌やから今日に限ってタクシーで永田町の議員会館へ・・・。
「おはようございます。」
「おはよう・・・。三木さんちょっと・・・。」
俺はバイトの事務員の女の子を呼ぶ。
「これに合う額買ってきてよ。」
「え?」
「そうだな・・・ポスター用の額を・・・。」
俺はその子にお金を渡してお使いに行ってもらう。俺はデスクのいすに座って、ポスターを眺めながらにやける。1時間ほどして三木さんは帰ってくる。
「これがちょうどいいと思うのですが・・・。」
三木さんは不思議そうな顔をして、お釣と領収書を渡す。
「悪かったね・・・。仕事に戻っていいよ。」
俺は包みを開け、額にポスターを入れる。やっぱりCA姿はたまらんわあ・・・。秘書が入ってきてにやけている俺を見て噴出している。
「和気さんそろそろ官邸のほうに・・・。ぷぷぷ・・・。」
「ほら、毛利君見てみろよ。いいだろこれ。」
「そうですね・・・。ぷぷぷ・・・。」
俺は画鋲を壁に打ち、額を引っ掛ける。うんうんいい位置や・・・。これで会えない日もばっちりやね・・・。
もちろん官邸でも同じ・・・。総理の執務室前にデスクをもらってるんやけど、そこのデスクマットにチラシをはさんでおいた。
「あれ?和気さん・・・。」
「お、弐條!ええやろこれ・・・。これで毎日仕事がんばれるってことやね・・・。」
「ホント、和気さんは彩ちゃんと・・・。さ、仕事ですよ。今日は会見が入っているんですから、内容を詰めましょう・・・。」
「おお。」
俺は弐條と午後の会見の原稿を取り出し話をする。
「ちょっと和気さん!ホントにこれでいいんですか?!」
「あ、ごめん・・・。」
「昼食会議もあるんですから、ちゃんとしてくださいよ!それ取り上げますよ!」
弐條だって子供の写真入れてにやける時あるやん・・・。
まあ何とか昼食会議も終わって、さて今年最後の会見だよ・・・。俺はカバンから昨日彩子からもらったネクタイを取り出して結びかえる。そして会見会場に向かう。今日は俺の番やから・・・。弐條が仕上げた原稿を手に持ち、会場に入る。ああ何回こういうところにたっても慣れないな・・・。やっぱり彩子ってすごいかも。今回の会見は今年の総決算みたいなこと。原稿どおりにしゃべる。質問系は前もって決まっているので、これも原稿どおり・・・。
「ではこれで・・・。」
するとある新聞記者が立ち去ろうとするこの俺を引き止めるんや。
「和気さんちょっと質問が・・・。」
「はい・・・。」
一番後ろに座っていたみたことのない新聞記者・・・。
「私はTスポーツ新聞の南と申します。」
スポーツ新聞??こういうところに来る新聞やない。なんか嫌な予感が・・・。
「和気さん、ご結婚されていますよね?」
すると弐條が驚いて飛んできて俺の代わりに答える。
「申し訳ありませんが、この場はプライベートなことを話す場ではございません。では失礼します。」
案の定や・・・。俺は弐條に引っ張られて会見会場を出たんや。だれや政治関係以外の記者入れたん・・・。ほんとやったら言ってもいいんやけどな、相手が相手やから・・・。もちろんその記者は政治記者に囲まれてぼこぼこにされたらしいんやけど・・・。俺が結婚しているのを知っているのは一部の政治報道関係者と、テレビ局の人事部ぐらいかな・・・。ま、去年の秋いろいろ騒がれたことあったけどな・・・。ちょっと浮かれすぎてたかな・・・。反省や・・・。
「弐條、当分麻布に帰られへんな・・・。」
「そのほうが懸命ですね・・・。」
俺は彩子にメールを入れて、当分帰られへんことを伝える。あさっては仕事納めやのに・・・。そのあとは彩子と一緒にゆっくりしようと思ったのに・・・。彩子は仕事再開させたところやからな・・・。邪魔で今やろ・・・。年末は議員宿舎の大掃除でもしようかな・・・。
ホンマ惚気すぎやった・・・。反省反省・・・。
俺は赤坂の議員宿舎に戻った・・・。夕飯は相変わらずコンビニ弁当。俺は料理が苦手・・・。自炊は出来るけど、作ってもうまくないんや。特に仕事でむっちゃ疲れているから作る気なんかならんやろ。必ず宿舎近くのコンビニで買う・・・。お弁当に500mlのビールとそしてタバコ・・・。いい生活してないな・・・。ホンマコンビニ弁当は太る。こういう食生活はあかんねんやろけどな・・・。やばいズボンが最近きついな・・・。最近運動ってのをしていないから筋肉がみんな脂肪に変わっていく。運動せなあかんわ・・・。帰ったら腹筋ぐらいはしとこ。でないと彩子に嫌われるよな・・・。
俺はカバンから鍵を出して、ドアを開ける。
ん???鍵が開いてるぞ。
確か昨日出る前に締めたはず・・・。
ドアを開けるといい匂いがする。
「和気さんお帰り。来ちゃった。」
彩子が俺を出迎えてくれたんや。俺はホンマ驚いた。
「何でここにおんねん!!!」
「だって和気さん、麻布のマンションに帰らないって言うし、着替えとかいるでしょ。掃除も洗濯もしないと・・・。」
「この階は同じ党の人ばっかりで俺と彩子の事知っている人ばかりやからええけどな、ほかの党の人は俺らのこと、知らんねんで・・・。俺が女連れこんどるように見えるやん・・・。これでも俺は堅物で通ってるんや・・・。ここに来るときに誰にも見られんかったか?」
「うん・・・。でも彩子は和気さんの奥さんだよ。奥さんだから・・・だから・・・ここに来たって・・・・。」
彩子は珍しく泣いた・・・。俺は彩子を抱きしめてキスをする。
「悪かった彩子。居たいだけ居たらいいよ。で、お父さんには言って来たの?」
「うん。」
「さ、おなかすいた。メシメシ・・・。」
彩子は暖かくておいしいものを作ってくれた。せっかく買った弁当が無駄になったけど・・・ま、明日の朝にでも食えばいいか・・・。俺はそっとコンビニ弁当を冷蔵庫の中に入れた。