うまのきもち~ある競走馬物語 (3)母さんとの別れと命名
母さんはまた父さんの子を受胎した。そして母さんは僕を寄せ付けなくなった。
「母さん、おっぱいちょうだい!」
「坊や!もうこないで!」
母さんは僕を蹴るふりをして近づけないようにするんだ。牧場のおっちゃんは僕を母さんから引き離し、同じ頃に生まれた仔馬たちと一緒に暮らすことになった。もちろんこれは競走馬になる第一歩・・・。母離れはしないといけないんだ・・・。
僕は同じ歳の仔馬たちと一緒に競争したり、喧嘩したり、遊んだり・・・。でもなんだか母さんのいない日々は寂しかった。昼間は仲間と一緒に走ったり遊んだりして気を紛らわしていたが、夜ひとり馬房の中で泣いていた。もっと教えて欲しいことがたくさんあったのにさ・・・。泣いて泣いて泣いて・・・・。
そんなこんなでまた春になった。そしてまたあの男がやってきたんだよね・・・。
「やあ、カミカゼ。」
僕はそんな名前じゃない。僕はプイッと男とは反対のほうを向いた。
「お前の名前を決めたんだよ。初めてみたお前の気の強さ。走ったときの勢い。風の様な走り。飛ぶように走っていたお前の父馬のようだったよ。名前はワキノカミカゼだ。いい名前だろ。」
ダサい・・・。もうちょっとかっこいい名前をつけて欲しかったんだけど・・・。まるで父さんみたいに横文字の・・・。
くんくん、いい匂い・・・これは・・・僕の大好物・・・。
「ほら、カミカゼ。ニンジンだよ。とても甘くていいニンジンを持ってきたんだよ。シラユキもこのニンジンが好きだった・・・・このニンジンがね・・・。」
僕はこのニンジンの匂いに誘われて男のほうへ・・・なんで泣いてるの?この男・・・。
「カミカゼ、お前の母、シラユキは死んでしまった。お前の妹を産んでね・・・。」
え???母さんが???妹を産んで???
「だからシラユキの仔馬のころにそっくりなお前はシラユキの忘れ形見だ。シラユキは私の一番のお気に入りだったんだよ・・・。もちろんお前の妹は私が引き取ることにした。名前はヒメギミ、ワキノヒメギミだ・・・。黒鹿毛の美しい仔馬だよ。」
母さんは妹を産んで死んでしまった。
それも随分前に・・・。
どうしておっちゃんは言ってくれなかったんだろう・・・。
母さん!!!!