うまのきもち~ある競走馬物語 (2) おっちゃんの借金の貸主がやってきた!
春が訪れ、僕は母さんと一緒に放牧されるようになった。僕はぴょんぴよん飛び跳ねながら、母さんの周りを走っていた。僕の名前は一応ワキノシラユキ01と名づけられている。そう母さんの名前はワキノシラユキ。そのはじめの仔馬ってことさ。真っ白くて綺麗な芦毛の母さん。白毛馬と間違えるくらい綺麗なんだ。それを受け継いだ僕の体の色は今はねずみ色。血統には芦毛と書かれたらしい。
じっと僕の姿を見て微笑んでいた母さんはふと牧場入り口のほうを見つめた。牧場のおっちゃんは慌てて入り口のほうへ走っていくんだ。すると黒塗りのでっかい車が牧場に入ってくる。
「ああ、あの人が来たのね・・・。」
と母さんがつぶやく。僕はわけがわからず母さんの側を飛び回っていた。
すると嫌~~~~~~な臭いが漂ってくる・・・。
これは・・・僕の嫌いな獣医さんの臭い・・・。
お薬の臭い?
いやだ~~~~~~と思って僕は放牧場を逃げ回った。
でもその男は獣医の格好をしていなかったんだよね・・・。
「坊や、あの人は人間のお医者様よ。この臭いは人間のお薬の臭いかしらね・・・。」
母さんは臭いのする男のほうに近づいて男に鼻をすり寄せている。僕は恐々母さんの側に寄り、隠れる。
「元気だったか、シラユキ。男の子を生んだらしいね・・・。」
ブルルル・・・・(そうよ、見てちょうだい。)
母さんは僕を鼻で押し出し、男の前に出す。僕は怖いから、男が僕を触ろうとした手を思いっきり噛んでやったんだ。といってもまだ大人のような歯じゃない・・・。
「いたた!」
「大丈夫ですか!和気さん!」
その男は苦笑しながら、牧場のおっちゃんと話している。
「武山さん!気に入りました。この子を頂きましょう!もちろんあなたに貸したお金を帳消しにいたしましょう。もう誰にも売らないでくださいよ。」
おっちゃんはたいそう喜んであの男と家の中に入っていったんだ。
母さんはもともとあの男の馬だった。母さんの引退が決まったときに、おっちゃんはあの男に譲って欲しいと頼み込んだらしい。男は条件を出した。それははじめの種付けは僕の父さんですること・・・。もちろんおっちゃんは承諾して、この男からお金を借りて母さんを引き取り、そして父さんの種付けの権利を買ったんだ。そして期待通り男馬の僕が生まれたわけさ。
母さんは僕があの男に引き取られることが決まって喜んでいたよ。
「坊や。あの人はとてもいい人よ。馬が大好きで、とても大切にしてくれるの。なかなか勝つことが出来なかった私にもやさしく接してくれて、ありがたかったわ・・・。私は何頭粗末に扱われる競走馬を見てきたことか・・・。競走馬は走って勝つことに価値がある生き物なのよ。勝てない私は価値のない馬だったのに大切にしていただいたうえにこうしてやさしい武山さんに引き取られたのだから・・・。坊や、きっとあの人の期待に沿えるようにがんばりなさい。」
まだ生まれて数ヶ月の僕は母さんが何を言っているのかよくわからなかったんだけど、母さんが言うことだからきっと本当のことなんだろうなって思ったんだ。