ドリーム・クエスト (6) 大学祭の爆弾発言
俺は金曜日から実家に戻っているんや。なぜって?衆議院当選後、臨時国会も終わり、当選お礼を兼ねた後援会の親睦会が日曜日にあるんだよね・・・。
これが終わると、常任委員会が待っている。俺は弁護士の資格を持っているので、法務委員会に入れられてしまった。父さんには厚生労働委員会に入れといわれたんだけどな・・・。弐條は義理のお父さんが自衛隊だからか、なぜか安全保障委員会に入れられたらしい・・・。まあ最近防衛庁が防衛省になるかどうかでごたついているからなり手が少ない。こういうところは新人議員が穴埋めするんや。一番新人代議士仲間で仲のいい俺らやから、一緒の委員になりたかったんやけどな・・・。まあしょうがないわ・・・。
国会の席順も新人若手やから、与党の一番前。となりは弐條やったから救われたけどな・・・。一番前はいやや。先輩代議士からちゃちゃをいれられたり、怒鳴られたり気を使うんや。
そういえば弐條のやつ、史上最年少当選や。25歳の誕生日に当選やからな・・・。それも当時総理大臣やった弐條常康氏の次男やから超話題になりよった。ま、将来義理の兄弟になるわけやし、仲良くしとこ。
まあこんなことはいいとして、代議士になって初の帰郷や。親戚一同みんなでえらい迎えてくれてな、こんな人おったっけ?という人まで出てくる。国会議員ってこんなもんかな・・・。あれほど俺のことを出来損ないの息子やってけなしてた親父が自慢の息子やと言いふらしているんやもんな・・・・。和気家から国会議員が出よったってな。まあうちは代々古くは平安時代以前から医師をしている名家や。それも直系やからな・・・親父の医師のプライドは超高いんや。あの東京で有名な医師一家丹波家とうちは代々ライバルらしいわ。西の和気家、東の丹波家ってね・・・。うちはずっと京都の御所一本でお仕えしてたしな、あっちは武家、それも江戸幕府。そういうところがいがみ合う原因かもしれん。ま、俺は和気家らしくない政治家肌やから、関係ないわあ。
「彩子さんは親睦会に来ないのかしら?!」
とうちの母さんがいいよる。ま、婚約者として来るのが当然やていうのが母さんの言いたいことかも知れへんが、母さんはまだ俺と彩子のことを認めたがってないからな、何かにつけて文句いうんや。俺は腹たって、言ってやったんや。
「わかったよ!呼んでやるよ!ええんやなほんまに。母さん、連れてきたら許してくれるんやな!」
そうや、彩子は大阪にいるって言うても、仕事できてるんやったわ・・・。夜宝塚ホテルまで来れるんやろか・・・。着るもんあるやろか・・・。俺は早速彩子に電話をするんや。
『え?行かないとだめなの?まあなんとかするね・・・。月曜日は授業が休講でよかったけど・・・。何着ようかな・・・。』
「ドレス系とかないのん?お姉さんに借りたら?だいたい体形一緒ちゃうん?」
『うん、だいたいね・・・。まあお姉ちゃんに相談してみる。あとマネージャーに言わないと・・・。学祭のあと帰る予定だったから・・・。』
「そうだよ、お姉さんは政治関係のパーティーの先輩だからいろいろ聞いたらいいよ。」
『うん、そうだね・・・。もちろん彩子の格好でいいんだよね・・・。』
「そうや・・・。まだうちの家族にいっとらんし・・・。」
ああほんまに有名タレントをこっそり彼女にしているってのも辛いもんあるわあ・・・。それも弟の敏明は北野彩夏の大ファンやし・・・。すごい日曜日を楽しみにしてるんや。
「泰明にいも行くやろ!彩夏ちゃん来るんやで!トークショーは朝11時から講堂やで。」
「ああ、行くつもりにはしているよ。入れるかな・・・。」
「さあな・・・。みんな楽しみにしてるんや。彩夏ちゃんを生で見られるんやもんな・・・。」
ホンマたのしそうやわ・・・。どんなトークショーになるやら・・・。彩子はほんとの彩子を知ってもらうんだって言ってたんやけどなあ・・・。
当日親睦会の会場は僕の公設秘書2名(恥ずかしながら、公費で雇っているんだ)に頼んで、朝9時に会場へ向かう。さすがに開場前からすごい人!まあチケットは彩子からもらっていたからいいんやけど・・・。ま、たくさんもらったから、敏明にもやってけどな・・・。敏明のやつ「何でこんなに持ってんねん」って驚いたんやけど、俺にはコネがあるって言ってやったさ。さすが国会議員って珍しく尊敬の目で見てくれたんや。
ま、開場後、俺は恥ずかしいから、中段の端っこに座ってチラシとかを見てたんや。やはり人気タレントのトークショーや。すぐに満員になった。司会者が出てきて、流行の服とヘアメイクをした彩子(いや北野彩夏)が出てくるとみんな大騒ぎ。
「皆さんおはようで、いいのかな?北野彩夏です。今日はよろしくお願いします。」
彩子よりもトーンは高いな・・・。久しぶりだな・・・生「北野彩夏」。やっぱしスタイルいいよな・・・。椅子に座るのも綺麗な座り方ってのをマスターしているから、すごく綺麗なんやわ。もちろん姿勢もええし・・・。
司会者とともに質疑応答風にトークショーが始まる。やっぱり彩子は仕事の顔になっているよ。彩子と同一人物には思えへんな・・・。
1時間ほどのトークが終わると、待ちに待った、質問コーナーや。そりゃみんな聞きたいことばかりだ、大騒ぎや。彩子は深呼吸をして質問に答えていく。まあはじめは仕事の話から始まって、だんだんプライベートな話になっていく。
『そのプロポーションを保つ秘訣は?』
「やはり、女性は愛が必要だと思います。だから私もこうして保たれるのかな?」
(その愛は俺の愛や・・・。)
『出身地は?』
「実は関西なんですよ。中学まで、父の都合で海外にいましたが、中学から大学までずっと、神戸にいたんです。」
『学生なんですか?失礼ですがどこの?』
「え?言うんですか?赤い門で有名な大学の文Ⅰに在籍しています。」
会場はどの大学かわかるから、おお~~~~~~って反応するんや。
『好きな異性のタイプって?』
「そうですね・・・。誠実で、優しくて、教養のある人かな・・・。顔にはこだわりません。あと、がっしりタイプで、包容力のある人かな・・・。」
彩子は僕のほうを見つめていうんや。そして僕に向かって微笑む。俺に向かってだよな・・・。
『好きな人っているんですか?』
彩子が答えようとすると、マネージャーからのNG 指令・・・。でも彩子は無視して話し出す。
「いますよ。すごくいい恋愛をしています。公にできるものならしたいんだけど。彼に迷惑がかかるのでここで言うのはやめておこうかなって思います。ね!」
彩子よ!この俺に手を振るのはやめてくれ・・・。彼氏がここにいるのばればれやんか・・・。マネージャーは慌てて彩子を引っ張って会場を後にするんや。会場は北野彩夏の彼が誰かと騒ぎ出したんや。俺は恥ずかしくなって講堂をさっさと出た。彩子から電話がかかる。
『和気さん今どこ?彩子着替えたから今から会える?』
「ん?んん・・・。今駐車場におるよ。」
『え~~~もう帰っちゃうの?』
俺は駐車場で彩子を待った。彩子は大きなカバンを持ってニコニコしながらやってくる。もちろん今は彩夏じゃなく、彩子だ。
「和気さん、待った?」
「んん・・・ちょっとね・・・。」
「今からどこへ行くの?ねえ。」
「ま、彩子の宿泊先を押さえよう・・・。今夜遅くなるから・・・。着替えるところもいるやろ。俺も着替えなあかんしな・・・。」
俺はホテルで準備している秘書に頼んで部屋を取ってもらったんや。まあ何とかダブルルームが取れて、車に乗って親睦会の行われるホテルに向かう。吹田から車で30分かかるかかからへんか。ホテルに着くと、車を預けてロビーへ。ロビーでは俺の秘書がルームキーを持って待ち構えているんや。俺は彩子の手を引いてルームキーを受け取る。
「時間が来たら呼びにきて。それ以外は取次ぎしないでくれないかな・・・。」
「はい、かしこまりました。」
俺は部屋に入ると彩子を抱きしめる。彩子はキスを求めてくるので、キスをする。
「和気さんごめんね・・・。あんなこと言って・・・。マネージャーさんに怒られちゃった・・・。」
「いいよ、ほんまのこといっただけやろ。でもあそこで手を振らんでも・・・。」
「だって和気さんが見えたからついね・・・。」
親睦会開始まであと3時間・・・。彩子は今日着る服を取り出して、クローゼットにかけるんや。
「どんな髪形がいいかな・・・。メイクもきちんとしないとね・・・。和気さんきちんとスーツ持ってきたの?」
「んん・・・。」
「めがねは?議員バッチは?」
「ちゃんと持ってきているよ。それよりも・・・。」
俺は彩子をベッドに座らせ、ゆっくり話す。
「和気さんは、彩子がいいの?それとも北野彩夏がいい?」
「ん?どっちも好きだよ。どちらも彩子なんだから。」
「もう彩子は芸能界に未練はないよ。今日のことで、和気さんが迷惑かかるのなら今のお仕事やめるし、この前もね、事務所にグラビアのお仕事やめるっていってきたから。もう前みたいな撮影はしないよ。だから和気さんは彩子のことだけ見ていてね。」
「ああ、わかってる。」
「じゃ、今日の親睦会で彩子が彩夏だってバレるかも知れないよ。いいかな・・・。」
「んん・・・いずれわかることだし・・・。まあ、弟の敏明は驚くやろうけど・・・。」
親睦会が始まる2時間前、彩子は準備を始める。お姉さんに借りてきたと思われる清楚なドレスというかワンピースというかそんなんを着て、ヘアメイクも自分でする。カバンからいろいろな道具を出して、なれた様子。さすがモデル。あっという間にできあがりって感じ。出来上がった感じは彩子と彩夏の中間ぐらい・・・。俺はさすがに見惚れてしまったんやな・・・。ホンマ綺麗やもん・・・。
「和気さん、おかしくないかな・・・。」
おかしいどころか完璧やん。俺は慌てて自分の身支度をするんや。最近買ったスーツにネクタイをする。すると彩子が議員バッチをつけてくれた。そして俺はトレードマークのめがねをかける。グッドタイミングで、秘書が迎えに来る。
「さあ、行こう・・・。ほんまにばれるかもしれないけどいいんやな?」
「んん・・・。いいよ。彩子は彩子だから。」
俺たちは宴会場に向かう。宴会場前には開始30分前にも関わらず、続々と後援会の人達が集まっている。そういえば今日弐條も呼んだんやった・・・。大親友やしな。ほんまは弐條のお父さんを呼びたかったんやけど、お忙しい人やから、代理人としてきてもらうことに。もちろん奥さん同伴。やっぱ奥さん半年前に双子を出産したなんて信じられんスタイルの良さやな・・・。弐條も相変わらずカッコええし。ほんま周りから見たら理想的な夫婦像やて・・・。あ、ぼおっとしてる場合やない。俺が主役なんや。挨拶回りにいかなあかんて・・・。
「彩子、お姉さんと一緒におればいいわあ。」
「うん。」
俺は出席者一人一人に挨拶している。彩子は楽しそうに弐條夫婦と話しているんや。立食形式の親睦会。もちろん会費制。司会者によって親睦会は進められる。俺も弐條も挨拶を済まし、親睦会開始や。すると母さんが俺の前にやってくるんや。
「彩子さんは来てないの?」
「おるよ。弐條君のとこや。待っててやつれてくるから。」
俺は弐條のとこ行ってな、彩子を引っ張ってくる。
「ほら母さん、彩子や。」
「お久しぶりです。お母様。」
母さんはなんともいえない顔で離れていくんや。親父は綺麗なカッコの彩子を見て、喜ぶんや。
「さすが未来の代議士夫人。泰明とお似合いやわ。早く一緒になって、父さんを安心させてくれ。早く孫も見たいしな・・・。」
「父さん!まだ俺たちは結婚できんわ。」
「学生結婚でもいいやろ。なあ彩子さん。」
彩子は真っ赤な顔をして、下を向いてたんや。少しすると、学祭の片づけの後遅れてやってきた弟の敏明が入ってきて叫ぶ。
「あ~!何でこんなとこに北野彩夏がいるんや!」
みんな注目の的や。なんやなんやって人が集まってくるんや。ああ・・・ばれてまうやんか・・・。
「何でにいの側に彩夏ちゃんが・・・・。」
「ちょっとこい!」
俺は敏明を引っ張って、会場から出る。
「うるさい!静かにしろ!」
「何で彩夏ちゃんがにいの横におるんや。」
「あの子は俺の婚約者の彩子や。」
「あれはまさしく彩夏ちゃんや!」
しょうがない・・・こいつにだけはばらすか・・・。
「そうや。北野彩夏や。彩子の芸名は北野彩夏や。彩子が売れる前から付きあっとるんや。いいか内緒や。特に母さんにはな!」
「嘘や!何でさえない泰明にいの彼女が彩夏ちゃんなんや・・・。嘘やって言ってくれ・・・。」
「嘘やない。後で彩子に聞いたらええ。ええか、他人の空似や。そう思っとけ。」
敏明は相当ショックやったんやろな。あれから口も聞いてくれへん。まあその場は何とか他人の空似ってことで収まったけど・・・。弐條のやつ、むっちゃ笑いをこらえとった・・・。
まあ北野彩夏の学祭での爆弾発言は次の日えらい騒ぎになって、北野彩夏の恋人探しが始まったのは言うまでもない。世間では北野彩子の彼氏=イケメンと勘違いしてくれているおかげで、俺は論外扱いになっとる。ま、早瀬裕也ちゃうかって噂も流れたけどな・・・。
弟といえば、いまだ信じられんとか、にいとは絶交やとかわけのわからんこと言ってるけどな、ほっといたらええし・・・。
まあ、源彩子も、北野彩夏も俺のもんって言うことで・・・。
めでたしめでたし(?)