明るい家族計画 (10)妊夫日記~妻の入院編 1
昼食後の昼下がり、何で今年の国会は平穏なんだろう・・・。やはり自衛隊海外派遣がなくなったから?予算委員会類も平穏無事・・・。やはりうちの父さんのおかげかな・・・。今年の9月で任期切れっていうのが惜しいぐらいだよね・・・。
僕は官邸の官房長官執務室前のデスクに座って、のんびり国会が終了するのを待つのだろう・・・。ここ2、3日は急な国会への呼び出しはない・・・。ああ、綾乃の愛妻弁当をおなかいっぱい食べて眠くなっちゃったな・・・。ここにいるのは僕だけだからちょっと寝ちゃおっかな・・・。
なんてデスクマットにはさんでいる愛しいわが子たちの超音波写真を眺めながらウトウトする・・・。こんな平穏な日が毎日続けばいいな・・・。
昨日の検診では主治医が綾乃は順調って太鼓判を押してくれた。管理入院も当分なさそうだと・・・。2人とも逆子じゃないから、このままだったら僕はもちろん出産の立会いをするんだ。この前も両親学級も行ったし、立会い出産の講習会も予約済み・・・。僕のお子ちゃまたちも順調に同じように大きくなってきているしね・・・。
この前はこっそり主治医の先生を呼び止めて、性別を聞いたんだ。もちろん綾乃に内緒で。そしたら予想通りだったんだよね・・・。僕には一度に息子と娘が出来るんだ。もちろん父さんには報告済み・・・。
ホント今日のような小春日和は眠気を誘う・・・。
すると僕の眠気を飛ばすような携帯電話の呼び出し音。相手は綾乃の携帯。
「もしもし綾乃?」
でもかかってきたのは綾乃じゃなかった。
『大変でございます!雅和様!若奥様が急に!早く病院のほうにおいでくださいませ!』
光子さんからかかってきたんだ・・・。僕は驚いて、議員会館にいるほかの私設秘書と連絡を取り代わってもらって、病院に急いだ。 光子さんはロビーでおどおどしながら僕の到着を待っていた。僕は急いで来たからか、首に身分証明書をぶら下げたままで、カバンも持たずに病院に着いた。
「若奥様がいきなりおなかが痛いといわれてお倒れになられたのです。裏の公園にいたからよかったのですが・・・。」
「で、綾乃の具合は?」
「早産は免れたそうですが、このまま管理入院に入られて、当分の間絶対安静と・・・。」
「昨日あれほど順調といわれたのに?」
僕は綾乃が入院している病室に入ると、綾乃は点滴されて眠っている。主治医の先生も首をかしげているんだ。まあ多胎妊娠はいろいろリスクがあるから、急変する事があるっておっしゃってたけど。とりあえず今は点滴で陣痛を抑えているらしい。
「まだお子様たち23週。まだ1000gありませんので、危ないところでした。今のところ薬で安定していますが、薬を最大限に使っても陣痛がはじまる場合は、帝王切開にて出産を検討しないといけないかもしれません。その場合、大学病院のほうへ・・・。」
「はい・・・。わかりました。」
僕は綾乃が目覚めるまで手を握り締め、溜め息をつく。
僕の妹のように生まれてすぐに死んでしまったら・・・。僕は母さんが父さんの選挙運動中の心労で予定日よりも2ヶ月早く生まれてきた。僕の場合は2000g超えていたので助かったが、妹は1000gちょっとしかなく、当時の医学では助からなかったんだよね・・・。それも僕の場合は何も障害がなくすくすくと育ったこと自体奇跡だった。だから早産の危険性は良く知っている。特にまだ綾乃は早すぎる。
そして任期満了による総選挙がこの7月末に控えている。そろそろ僕は官房長官の公設秘書として選挙準備に当たらなければならない。毎日こうしている事が出来ないのは残念だ・・・。 綾乃は目覚めるなり、僕にこういった。
「雅和さんの嘘つき!大嫌い!ここから出て行って!」
え?なんで?多分切迫早産で気が立っているんだろうか・・・。しょうがなく綾乃のいうとおり部屋を出た。
「弐條!嫁さん大丈夫か?」
和気さんが僕のカバンを持って見舞いに来てくれた。
「和気さん・・・今のところ落ち着きましたが・・・。切迫早産で、薬で陣痛を抑えているらしいのです。最悪の場合・・・。」
「だからリスクが高いって・・・。ま、今の医学だったら1000なくても生きる確率あるし、今安定しているのなら大丈夫じゃないかな・・・。ま、わからない事があれば聞いてくれよ。少しくらいなら知識があるから・・・。弐條、カバン忘れてただろ。」
「あ、ありがとうございます。」
「いいよ、総理すごく心配していたよ。今度週末にでも見舞いに来るって・・・。」
「そう・・・すみませんでした・・・。」
「いいよ。彩子ちゃんも心配していたよ。」
「そう、彩ちゃんが・・・。」
「気を落とすなよ。お前がしっかりしないといけないんだよ。父親だろ。」
本当に和気さんはいつも親身になってくれて助かる。今まで綾乃のためにあれがいいこれがいいといって僕に渡してくれるんだもん・・・。ホントに僕が今しっかりしないとね・・・。