うれしはずかし恋愛生活 東京編 (12)結納 | 超自己満足的自己表現

うれしはずかし恋愛生活 東京編 (12)結納

 今日は綾乃と僕の待ちに待った結納の日。ホテルの料亭を貸切って弐條家、源家の結納が行われるんだ。仲人は官房長官夫婦。今は結納さえしない人達が増えたんだけどね。 両家とも関西出だから、関西式の結納になった。


関西式は結構豪華だ。仲人の藤原官房長官夫婦は関東出身のため、昨日は夜遅くまで冠婚葬祭の本を読んで練習していたそうだ。ホテル側も、関西式はあまりないし、総理大臣家の結納だから粗相のないように大慌て。


綾乃のお父さんは今日結構何を着ようか悩んだみたいだ。自衛官に大変誇りを持つお父さんは結局礼装制服に決めたらしい・・・。濃い緑色で上着には階級章や様々な付属品がいつもの制服よりも多い。そして儀礼の時にはめる白手袋。本来だったら剣を携えるのが本式の礼装みたいだけど・・・。よく儀礼とかに着るあれだ。もちろん上官と相談の上決めたそうだけど・・・。


綾乃はおばあちゃんがこの日のために買ってくれた、有名作家の一点物の京友禅。白地に伝統的な手書きの絵柄が入ったすばらしい振袖。


 僕と父さんはモーニングを着て作法にのっとった結納がひととおり済むまで隣の部屋で待つ。見えないのでよくわからないけれど、声は聞こえるので様子はわかる。 一応僕も本を見て調べた。流れはこうだ。


仲人はうちから預かった結納品を持参して、「お床拝借します」と挨拶し、結納品を飾りつけ、それが済むと、綾乃と綾乃のお父さんが仲人さんの前に座って結納品の目録を渡すんだ。そして作法にのっとった挨拶が始まる。


もちろんホテルでするときは進行役の司会者がつくんだけど・・・。


「本来ならば、ご結納を源家へお持ちするべき所でありますが、この場をお借りしまして、結納をさせていただきます。よろしくお願いいたします。本日はお日柄もよろしくおめでとうございます。弐條様からのご結納の品でございます。幾久しくお納めくださいませ。」

「有難く拝見させていただきます」


そのあと綾乃のお父さんは別室に下がって受書を確認した上戻ってきてまた受書を仲人のほうに向きかえて挨拶。


「本日は誠に結構な結納の品々をいただき有難うございます。幾久しくお受けいたし ます。」


と答礼する。まああといろいろ作法があるんだけど、緊張し過ぎて覚えていない。同時に綾乃の家から結納返しを仲人が受け取った。一通り礼儀作法どおりの結納が終わると、両家が集まって挨拶をする。そして一応結納品のまえで記念撮影。


そして別室で両家と仲人夫婦で会食を始めた。やっぱり緊張する。やっとこれで正式に婚約したんだ。まだ日取りは決まっていないけどね・・・。やっぱり綾乃も緊張しているようだ。特に綾乃のお父さんははじめて官房長官と直にあって緊張している様子。ホントに和やかな会食だった。ホテルの人たちも滞りなく済んでほっとしていることだろう。


雅和綾乃結納
やっぱり大事な結納だから、記念にプロのカメラマンに写真を撮ってもらう。これは予約した時に決めていた。もちろんどこで取るかも決めていたんだ。ホテル内のきれいな日本庭園。歴史ある庭園だし、丁度桜がきれいだ。今年は桜が早いようで、3月末の今日満開ではないがそれに近い。池の辺の橋の上で、両家で写真を撮ったり、綾乃と二人で写真を撮る。いろんなところで何枚も撮った。


そのあと二人で庭園を散策する。400年も歴史のある庭園だから、ホントに日本らしい最高の庭園・・・。綾乃は頬を赤らめながら、桜を見上げるんだ。その姿は本当にきれいで、絵になる。つい僕はその姿を携帯カメラで写した。


僕は今日綾乃に伝えなければならない事があった。結納が終わったら伝えようと思っていたんだ。


「綾乃・・・。あのさ・・・。」

「ん?何?」

「驚かないで聞いてくれる?」

「だからなにってば・・・?」


僕はとても美しく微笑む綾乃の顔を見つめながらいったんだ。


「綾乃、僕さ、8月からアメリカに留学するんだ。ワシントン大学に交換留学生として1年・・・。」

「え?何で?」

「教授の勧めもあって、国際的な政治を勉強できるワシントン大学に・・・。綾乃、ついてきてくれると嬉しいんだけど・・・。僕も世界の中心アメリカで政治の勉強をしたい。父さんも賛成してくれたよ。あとは綾乃の意見を聞きたいと思って・・・。」

「もう決めたんでしょ・・・。あたしは大学があるもん・・・。入ってすぐやめたり休学はいや・・・。もちろん雅和さんとは離れたくない。いってきなよ。あたし待ってるから・・・。」


綾乃はすごく悲しそうな顔をして下を向いた。さっきまでのとても嬉しそうな顔とは正反対・・・。


「雅和さん、もうちょっと時間をくれる?」

「いいよ・・・。まだ時間はあるから・・・。」


僕はもちろんこういうことになるのはわかっていた。でも僕のスキルアップのために行く決心をしたんだ。でも悩んだよ。1年綾乃と超遠距離恋愛になる。だからこの結納をまって留学の話を切り出したんだ。


「綾乃、本当に今まで黙っていてごめん。」

「いいよ別に・・・。寂しいだけだから・・・。」


ホントに僕は綾乃の気持ちなんか考えていなかったのかもしれない。自分のスキルアップや好奇心ばかり・・・・。ホントに僕って熱中する事があれば周りの事が見えなくなるのは悪いくせだ・・・。


やっぱり僕達の結納は注目されているんだよね・・・。まるで皇室の結納のようだ。もちろん父さんが史上最高の支持率だからかもしれない。その上、綾乃のお父さんが陸上自衛隊上層幹部だから・・・。やっぱりホテルロビーには報道陣が多いらしくって、しょうがないのでこの日本庭園で報道陣撮影をすることになった。今まで綾乃は高校生だったから顔はあまり出なかったけれど、高校を無事卒業して、大学進学も決まったから、今回はばっちり顔と名前出しOK。インタビューはNGだったけどね・・・。


撮影に入るので、綾乃はきちんと化粧とか髪型を直してやってくるのを待つ。綾乃のお父さんは僕に話しかけてきた。


「わかってきたら、モーニングにしていたが・・・。いくら礼装とはいえ、制服ではちょっとね・・・。」

「お父さんは誇りある自衛官じゃありませんか・・・。」

「そうですね・・・。」


お父さんは苦笑しながら、緊張した表情で準備をする報道陣たちを見つめていた。


本当に綾乃のお父さんは有能だ。昨年もいろいろ有名な事案を指揮し、実績を上げている。本当にこの僕からも見て尊敬できるお父さんだ。


綾乃はホテルの女性従業員に誘導されながら、こちらにやってきた。さっき留学の件を切り出したためか、ちょっと不機嫌そうな顔をしている。


「綾乃、今日はお前のお披露目なんだからもうちょっといい顔しなさい。」

「わかってるわよ、パパ・・・。」


綾乃は深呼吸をして僕を見つめると、いつもどおりの顔に戻る。(多分無理してだろうけど・・・。)ホテル従業員の誘導で、撮影場所に案内されると、僕らを中心にして、両端に親と官房長官夫婦が立つ。綾乃のお父さんは被っていた制帽を脱ぎ、白い手袋をつけた手で制帽を持つ。


何枚か6人で写真を撮って、あとは二人で写真を撮る。もちろん写真だけではなく、映像も撮られる。何気ない表情も撮られるから大変だよね、映像は・・・・。やっぱり綾乃は切り替えが早いのか、こういうところではさっきと違ってニコニコしている。こういうところは綾乃のすごいところだと思うよ。ホント政治家の妻向き・・・。未だにこういう表立ったところに出るのは慣れないんだけどな・・・。


やっと報道陣相手も終わって、ほっとしたよ。父さんもいろいろ忙しいから終わったらすぐに公邸に戻っていった。僕は藤原官房長官夫婦にお礼を言って、帰る準備をしたんだ。


綾乃達はやっぱり荷物が多いから大変だね・・・。お父さんも礼服制服からスーツに着替えて、ロビーで待っていてくれたんだ。もちろん僕も着替えたんだけど・・・。ロビーで待っている綾乃に、綾乃の友人たちが駆け寄って何か話していた。


「綾乃、おめでとう!はいこれ!」


綾乃の友人たちは綾乃に花束を渡していたんだ。


「ありがとう・・・嬉しいな・・・来てくれるなんて思わなかったよ・・・。」

「なにいってんのよ!あたしら親友じゃん。幸せになりなよ。」

「いつ結婚するの?」

「まだわからないの、ホントは・・・。とりあえず結納だけね・・・。あ、雅和さん・・・。」


綾乃と目があって僕は綾乃に歩み寄り、綾乃の友人に挨拶をする。


「今日はおめでとうございます!わあ本物よ。写真では見たことあるけど。」

「ホント綾乃は幸せだよね!」


まだ綾乃は話している。僕は乗ってきた車を玄関前に移動してきて、後ろに綾乃の家の荷物を積む。車に乗ってきたから会食の時は、お酒を飲まなかったんだ。


「綾乃、帰るぞ!」

「ハーイ!パパ!じゃあ入学式でね!」


綾乃は友人と別れて大事そうに花束をかかえながら僕の車の助手席に座った。はじめて僕の車にお父さんを乗せる。やっぱり緊張するんだよね・・・。


「弐條君、綾乃のこれからのこと頼んだよ。もうこれで弐條君に綾乃をやったのも同然なんだから・・・。」

「はい・・・必ず・・・。」


綾乃は僕が留学することを知っているので、顔を下に向けたまま黙っていたけど・・・。


やはり夕方のニュースとかでちょこっとだけど流れたし、次の日の朝刊にはちっちゃいけど写真つきで掲載されていた。やっぱり綾乃はきれいに写っている。



『首相次男、陸上自衛隊幹部令嬢と結納 


 昨日午前、都内ホテルに於いて内閣総理大臣弐條常康氏(51)の次男で慶應義塾大学2年弐條雅和さん(20)と、陸上自衛隊幕僚監部幕僚副長源将直氏(54)の長女で、4月より慶應義塾大学入学予定の源綾乃さん(18)の結納が、藤原官房長官ご夫婦が仲人となり滞りなく行われた。結婚の日取りは未定。』



朝のワイドショーでも結構取り上げられて、大騒ぎとまではいかないものの、報道された。週刊誌ではいつも過激報道をする週刊誌が綾乃の曾おじいちゃんやおじいちゃんの経歴や写真を掲載し、お父さんの経歴、綾乃の生い立ちとかも詳しく調べてのせていた。もちろん僕のことも書かれていたけれど・・・。やっぱり綾乃は未来のファーストレディーとか書かれて、注目されている。まあ中立的な内容だったから安心したけど・・・。ホントもう僕らって公人扱いだね・・・。プライベートもくそもないや・・・。



やっと結納を交わした2人・・・その途端雅和は留学・・・。二人の愛はどうなるんでしょう・・・。