聴覚障害者の9割は中途失聴者といって後天的に聴覚を失った人で、先天的に耳が聴こえない、ろう者とは違います。中途失聴者は途中から聴覚障害を患ったので話すこと自体はできますが、音を聞き取ることができません。
補聴器をつければ聞こえるけど、私たち聴者と同じように言語として認識できる程度の音は聞こえない。
この『雨夜の月』は、認識されづらいといわれる聴覚障害のことだけでなく、きょうだい児や障害者の周囲にいる人が陥る心理・共依存について生々しいほどリアルに描いてあります。
私は共感しすぎて呻きながら読みましたが、だからこそ色んな人に読んでもらいたいと思いました。
最近だと手話や聴覚障害を扱った作品が増えましたが、美談として綺麗な部分を描いている作品が多かったように感じます。
この作品はある意味で異彩を放っており、美しさだけではない現実的に生じやすい問題をとてもわかりやすく書いてくれています。
できるなら、去年の今頃に読みたかったです。
あらすじはこんな感じです。
奏音(かのん)は小学校5年生の時に両耳の聴覚を失い、音楽の道も日常も友達も失い他人と壁を築いていきていました。
高校に入り、とても面食いの聴者の咲希(さき)が周囲と壁を作る超絶美少女の奏音に話しかけまくって友達になります。
で、色んな問題を周囲の力を借りながら解決し、絆を深めて恋愛なのか友情なのかよくわからない状態になって、恋愛の方に傾いていくというものです。
めっちゃわかりやすい!!( ゚Д゚)ガーン
私だってこの一年、色んな本を読みまくったけど、この作者はすごくよく調べた上でそれを漫画にしてわかりやすく表現してくれてる。
あと、咲希ちゃんに死ぬほど共感してしまった。私はこんなに良い子じゃないけどw
面食いで吸い寄せられるように美女に近づいていく咲希ちゃん。
この子は女の子が可愛いかどうかは気にするけど、耳が聴こえるかどうかは気にしてないんだと思う。
私もそうだからわかるよ!!(*´Д`)
手話覚えたり、筆談したり、聴覚障害の勉強したり、努力と工夫でどうにでもなるもんね! 必要なら日本自体を変えればいいし、可愛いかどうか以外は気にならないもんね!
奏音ちゃんは話すこと自体は問題ないので、手話は使わずに読唇で相手の会話を読み取って生活しています。
咲希ちゃんのすごいところは奏音ちゃんに読唇がエロいと正直に伝えて、それが自然な意見だから変な空気にならないところだと思いました。
音が聞こえないから唇の動きを真剣に見て会話を予測するしかないんだけど、みんなに是非想像してみて欲しい。
美女が瞬きもせずに、自分が話している時にずっと口元を見られて、意識しないでいるのって不可能じゃない!?( ゚Д゚)くわっ
でも、それって仕方がないことだし、指摘されても相手が困ると思って、私は言えなかったから、咲希ちゃんはすごいと思う。
咲希ちゃんの等身大で相手と向き合って、気を使いすぎずに相手に伝える姿勢がすごく素敵でした。
奏音ちゃんには妹の凛音ちゃんがいますが、この子はお姉ちゃん大好きっ子でピアノもやめちゃうし、咲希ちゃんがお姉ちゃんに近づくのが許せなくて、「何か下心があるんだろう」と詰め寄ります。
凛音ちゃんのセリフにめちゃくちゃ心当たりがあるし、私以外にも同じ経験をした人って全国的にも多いんだろうなと思います。
そんなみんなの傷口を抉ってくる凛音ちゃんのセリフをせっかくなので書きます。
「お姉ちゃん耳が不自由だから、まっすぐにカオを見て話すし、なんていうか距離が近くなったりするし、だからカン違いするバカが多くて
読唇術ってね、読「心」術なとこもあるんだよ。
ずっと表情を見てるから、それが本心かなんとなくわかるようにもなる。
あんたは今日初めて私に会ったと思ってるだろうけど、私は前から知ってたから。
傍から見てお姉ちゃんと話してる時のあんたは…うさんくさい
友達ヅラして何を企んでるの? 何を隠してるの?」
純粋な下心だよっ!!( ゚Д゚)くわっ
他に何があるんだよっ!!
話をちょっと変えますが、手話の勉強してる時に女優のあすかさんとろう者の友達(女性)についての文章を読みました。
あすかさんは大学に入って、ろう者の友達と仲良くなり、毎日2時間手話の勉強をして、夏休みは毎日、彼女と遊んでいたそうです。
あすかさんは彼女と大きな喧嘩をして、2回ストレスで声が出なくなったそうですが、彼女とは今でも友達です、と締めくくられていました。
何があったんだろう…。
大体、わかるけどさ…。
これ、女性が恋愛対象かどうかだけじゃなくて、距離が近くなりすぎて共依存っぽくなることって意外とあるんだろうな。
障害者とその周囲の人が陥りやすい心理ってなかなか言語化できないし、認識しづらい問題でもあると思います。
だから、色んな人に広くこの作品を読んでもらいたいと思いました。
途中から甘々の百合漫画になっていくし、障害と社会の共生についての作者の考えもわかりやすく描かれているので是非読んでみてください。