恋愛の突っ込んだ価値観の違いってなかなか対話を深めていくのが難しいと思うんです。
最近、新刊が出た「付き合ってあげてもいいかな」という百合漫画があるんですが、最初から読み直してたら本当に良い作品だし、恋愛観を深堀する媒介ツールに丁度いい気がしたので感想を書くことにしました。
大学に入学したばかりの冴子と美和という二人の女性がこの物語の主人公です。
二人は軽音楽部に入部したことをきっかけに恋愛関係になったり、お別れをしたり、頑張って友達に戻るけれどセフレになってしまったり、また友達に戻って、今度はお互いに新しいパートナーを見つけて良い理解者になっていく、という内容です。
作者は別れを丁寧に描いた百合作品を目指しているとのことでしたが、キャラクターもとても丁寧に作られていて、セリフの一つ一つが胸に刺さってきて、ある意味トラウマを抉ってくる作品でもあります。
読んでいない人のために簡単に二人の主人公について説明します。
冴子:明るく社交的で友達も多く、過去に女性とも男性とも交際経験がある。
母親は理解してくれているけれど、過去のトラウマから人に踏み込まれすぎるのが苦手な一面も。弱みを出したり、女性側に回ることが苦手。
美和:男性にも女性にもモテる。すぐに周囲から恋愛対象として見られてしまうため、人の顔色を伺うオドオドした一面がある。自己肯定感は高いが、それゆえに自己肯定感が低い人の心理には鈍感。素直だが、大きな挫折をしていないため脆い部分もある。
本当は最初から細かく語っていきたいんですが、今回は冴子に焦点を当てて語っていきたいと思います。
私は冴子には一番魅力を感じていませんが、それは冴子が私に近いからだと思います。だから、一番共感するのも冴子についてです。
冴子は人に本音で話すけど、本心を伝えることは少ないんだろうなと感じました。
社交的な人って他人との距離の取り方や意見を人を傷つけずに伝えるのがうまいから、人の輪の中に入っていけるんだと思います。ストレスがないわけではないけれど、自分なりの解消の仕方があって、他の人よりはそれがうまいんだと思います。
机で例えると、二重底ですかね。
引き出しを開けた中身は見せるけど、二重底の下にある本心は誰にも見せない。
ちゃんと本音は伝えてあるから、周囲から本心を伝えないことを不審に思われない。
美和が高校時代の先輩に心移りをしてしまった際に冴子はそのことに気が付きますが、美和は冴子に気が付かれていることに気が付かない。でも、冴子が何かにイライラしていることはわかっているから、美和は冴子に本音で話し合いをしようと提案します。
普段は穏やかな冴子が声を荒げて美和に本心を言うセリフが印象的でした。
「白々しいんだよ。自分は他の女に目移りしておいて。……あたしが気づかないとでも思った?」
追いかける恋って辛いですね。
相手が自分をあまり見てくれていないことはわかるのに、その相手自身がそのことを理解していない。そのことで傷ついているけど、自分からは絶対に言えない。
それを言えば、あとは破局しか残っていないから。
でも、相手はそのことに全然気が付いていない。
私でも相手が好きならやり過ごそうとするだろうなと思いました。
だって、他の方法は終わりが見えてしまうから。
全部わかった上で「白々しい」と怒ってしまった冴子の無念が悲しかったです。
この作品は本当に面白いので順番に細かく感想を書いていきたいですね。