スマホに届いた、
 彼のお母さんからのLINE。 
「ギプス、今日やっと外れたの。 
せいかちゃんにお礼したいから
よかったら帰りに
うちに寄ってくれる?」 





 そんなふうに誘ってもらって、 
私は学校帰りに
彼の実家へ立ち寄った。 






 お母さんは、
いつものようにやさしい
笑顔で出迎えてくれて、 
「病院の帰りに、
ちょっと贅沢しちゃったの」と、
箱を開けて見せてくれたのは、
 色とりどりのきれいなケーキ。





 普段なら自分じゃ
買わないようなちょっと
高級なケーキで、 
「せいかちゃんこれ好きでしょ?
 ほら、いちごのやつ」って、
私の前にそっと置いてくれた。






 ひとくち食べた瞬間、
 ふわっと甘くて 思わず
「おいし〜しあわせ〜」
って言ったらお母さんが
ふふっと笑ってくれた。





 「本当にありがとうね。
 私が動けなかった間、
 せいかちゃんが色々助けてくれて… 
本当に助かりました」 
 そう言って、丁寧に頭を
下げてくれる姿に、 
なんだか胸がじんわり
温かくなった。 





 そして、お茶を飲みながら 
お母さんがふと
思い出したように言った。 
 「そうそう土曜日の七夕祭り、
浴衣着るんでしょ?
 よかったら、
着付けてあげるわよ」




 「えっ、いいんですか?」 




 「もちろん。
浴衣の着付け、得意なの」 と
笑顔で言ってくれた。
 



 2年前は自分でYouTubeを
見ながらどうにか
着てみたけど上手く着れなくて
何度もやり直した。 
でも、どうしても
浴衣姿で彼に会いたくて
 頑張った日のことを思い出した。




 「じゃあ、その日、
ちょっと早めに
おじゃましてもいいですか」 




 「うん、もちろん。
 せいかちゃんのこと、
かわいくしてあげるからね」
 そう言ってにこっと
笑ってくれた。





夜、リビングで彼と

並んで座っているとき、

 「ねぇ、今日ね、

お母さんが浴衣の

着付けしてくれるって

言ってくれたの」 





そう伝えると、

彼はちょっと

驚いたような顔をして、

 「え、ほんと?よかったね」って、

 すぐに笑顔になって

私を抱き寄せてくれた。





 「七夕、楽しみにしてる。 

せいかの浴衣姿、

絶対かわいいからさ」 

 そのまま私の髪を

そっと撫でながら、 

「そういえばさ、俺、

せいかに隠してたこと

あるんだけど…」と、

ちょっといたずらっぽく

笑ってスマホを取り出した。 





 「え?なにそれ?」

と覗き込むと、 

そこには、2年前、

私が浴衣を着て焼きそばを

配ってるところの写真だった。





「えっ、これ…!?」

 思わずそう言った私に、

 彼は少し照れくさそうに

笑って言った。 

 「ごめん。でもかわいかったから。 

七夕祭りの風景を撮ってて。

 その時せいかのことも何枚か

撮ってたんだ」 

 スマホの画面を見つめながら、 

「ほんとごめん…でもさ、

これ俺の大切な思い出なんだ」 

 その声があまりにもやさしくて、 

怒れなかった。






「…もう」って小さく笑った。

 恥ずかしいけど、

うれしかった。

こんなふうに、

私の写真が彼の中で

大切な思い出になってるなんて

そんなふうに言って

もらえるなんて、 

全然、思ってなかった。






 「今年はふたりで写真撮れるかな」 

そうつぶやいたら、

 彼はにこっと笑って、

 「うん。撮ろう」って、 

私の髪をそっと撫でて

 おでこにキスしてくれた。

七夕祭りの日が
とても楽しみになった。