土曜日の午後。
彼とふたりで花屋に寄って、
お墓に添える花を選んだ。
 
 

 
 「これ、せいかが好きな色だよね」 
そう言って彼が
選んでくれたのは、
ピンクと白の
やさしい色味の花束だった。
 
 
 
 
 静かな墓地に着くと、
 お墓の前を掃除して、
花を供えて、お水を変えて。 
彼は何も言わずに
全部手伝ってくれた。
 

 

 
 
ふたり並んで手を合わせた。
 私は目を閉じて、
心の中で話しかけた。 
 「お父さん、お母さん
私は今ちゃんと笑ってるよ。
 彼がいるからとても
しあわせです」って。
 
 
 
 
 隣にいる彼はとても
長い時間、
目を閉じて祈っていた。
その姿をみて胸がじんと
熱くなった。
 
 
 
 
手を合わせ終えた彼は
やわらかい声でこう言った。
「せいかのこと、
ご両親は
ちゃんと見守ってくれてるよ」 と
肩を抱いてくれた。
 
 
 
 

 
私は「なに話してたの?」って
聞いてみたら
彼は少し照れたように笑って
「内緒だよ」って言った。
その笑顔がたまらなく
やさしかった。
 
 
 
 
 
 
帰り道、車に乗り込むと
彼が話しはじめた。
 「2年前、せいかが
泣いて俺に
電話してきた時の声、
ずっと忘れられないよ。
すごく心配だった。
でも 今、こうして手を
つないで側にいてくれることが
なんか奇跡みたいだよね」と
言ったその彼の言葉に、
胸があたたかくなって、
 私は「うん、そうだね」と
答えた。
 
 
 
 
そして彼は続けた。
「せいかはさ、
お父さんが亡くなったときも、
ちゃんと前向いてたし。 
いろんなことあっても、
誰のせいにもしないで、
ちゃんと立ってる。
 そういうところ、
すごいと思ってるよ」と
言いながら頭を撫でてくれた。
 
 
 
 
 私は 「そんなことないよ。
たぶん私、ひとりじゃ
何にもできなかった。
 なおやさんがいて
くれたからだよ」と言うと
彼は、やさしく微笑んで
「それでも、ちゃんと
前に進んでるのは、
せいか自身の力だから」
と言ってくれた。 
 
 
 
 
 
  家に着いて靴を脱いだとき
彼が不意に後ろから
私を抱きしめてくれた。
 ぎゅっと、強く。
 「俺、せいかと
出会えてよかった。
 この先もずっとずっと
一緒に過ごしたいって
心から思ってる」 
 彼のその言葉に自然と
涙がぽろぽろでちゃって
 私は何も言えず、
ただ彼の腕の中でうなずいた。
 
 
 
 
 
私は泣きながら彼に言った。
「私もなおやさんのとなりに
いられてしあわせだよ」って。
 
 
 
 

彼は私をそっと抱き上げて、
そのまま、ぎゅっと

強く抱きしめてくれた。

「ほんとに好きだよ。
絶対、せいかを守るから」って
真剣な声で、

私の耳元でささやいた。

胸がぎゅうっとなって、
涙が止まらなかった。

 

 

 

 

言葉にならないまま
ずっと泣いてしまった私を、
彼は何も言わずに、
静かに抱きしめてくれてた。

その腕の中があたたかかった。

涙が止まるまで、ずっと。
なにも聞かず、

なにも言わず、
ただそばにいてくれる

その優しさが、
何よりもしあわせだった。