好き。
大好き。
愛してる。
離したくない。
ずっと一緒にいよう
そんな言葉を
何度も何度も交わしてきた。
ぎゅっと抱きしめられて、
甘いキスをして、
全部があたたかくて、
幸せに包まれてる毎日。
だけど、どうしてなんだろう。
ふとした瞬間に、
苦しくなるときがある。
夕食の準備をしていた時、
何気なく言った。
「なおやさん、
料理の手際いいよね。
しかも美味しいし」
そう言うと彼は
少し照れたように
笑って言った。
「ありがとう。ひとり暮らし
長かったのもあるし
前は、俺が作ること
多かったから」
その“前”が何を
意味してるのかわかってる。
前って言葉に悲しくなった。
別に責めたいわけじゃない。
もう終わったことだって、
ちゃんとわかってる。
それでも、私は知らない
その頃の彼に、
少しだけ嫉妬してしまう。
一度は「愛してる」
って言って指輪を交わして、
同じ屋根の下で
暮らしてた人がいる。
その事実に、
何度も胸がざわつく。
今は毎日のように
「せいかのこと、
大好きだよ」
って言ってくれて、
その言葉に幸せで
いっぱいになるのに。
なのに、小さな棘だけは
抜けきれなくて、
そんな自分がちょっと
だけイヤになる。
「やだ、前なんて聞きたくない。
なおやさんが結婚してた
ことなんて思い出したくない」
思わず、そう口にしてしまった。
わがままだってわかってる。
幼稚だってことも。
でも、止められなかった。
そのまま、彼の胸に
ぎゅっとしがみついた。
「……あっ、ごめん、せいか」
と言って 彼はすぐに、
私の背中に手を回して、
包み込むように
抱きしめてくれた。
「ほんとにごめん」って
私の髪にキスしながら
何度も謝ってくれた。
「なおやさんごめんなさい。
私、やきもち妬いちゃった」
彼は私の頬を両手で包んで、
まっすぐに私の目を見て
こう言ってくれた。
「せいか、俺は心から
せいかを愛してるよ」
そして
「不安にさせてごめん」と
言ってキスしてくれた。
とてもやさしいキスだった。
「でも、私やきもち妬いて
ばっかりで
めんどくさいよね」
そう言った瞬間、
自分で言いながら
泣きそうになった。
だけど彼はすぐに
ふっと笑って、
私の頭をやさしく
なでながら言った。
「せいかがめんどくさいなんて、
思ったこと一度もないよ。
むしろ、そんなふうに
思ってくれるのが嬉しい。
やきもちだって愛されてるって
感じられるから
俺はうれしいよ」
その言葉に、
ぶわっと涙が
こぼれそうになった。
「うそでも、うれしい」
「うそじゃないって。
ほんとに」
彼の笑顔がやさしくて
私はぎゅっと抱きついた。
私は、やきもちを
妬いてしまった自分が、
ちょっと情けなかった。
でもそれってきっと、
彼のことが
本当に本当に好きだから。
心から愛してるから、
不安になったり、
過去に嫉妬したりする。
恋に不器用でも、
素直じゃなくても、
ちゃんと彼と向き合って、
寄り添っていけたら
それだけで、もう十分だ。
