朝、目が覚めたときから、
少しだけそわそわしていた。
面談は午後から。
午前中はいつも通り
授業があるけれど、
心のどこかで、
ずっと彼のことを考えていた。
「ちゃんと時間通りに来れるかな」
「先生とどんな話になるんだろう」
そんな不安と期待が、
交互に胸に湧いてきてた。
お昼休みに教室の窓から
空を見上げた。
梅雨の合間の晴れ間。
深呼吸したら
少し気持ちが落ち着いた。
放課後、教室前の廊下で
一人待っていると、
向こうからスーツ姿の
彼が歩いてきた。
背筋を伸ばして、
でも表情はやわらかくて。
「せいか」その声を
聞いた瞬間、
緊張がふっとほぐれた。
担任の先生に呼ばれて、
3人で面談が始まった。
彼は椅子に座る前に、
静かに頭を下げて挨拶した。
「いつもお世話になっております。
今日はお時間いただき
ありがとうございます」
その所作がとても丁寧で、
私はなんだか誇らしかった。
先生はやさしい笑顔で
話し始めました。
「せいかさんは、
授業中も落ち着いていて、
まじめに取り組んでいます。
成績も優秀で安定していますし、
言葉遣いも丁寧で、
周囲との関わり方にも
安心感がありますね」
先生は、少し声のトーンを
落として続けた。
「正直に言えば、
最初におふたりの生活に
ついて伺ったときは
驚きもありました。
ですが、せいかさんの
日々の様子を見ていて、
不安はありません。
こうしてきちんと
ご挨拶に来てくださったこと、
ありがたく思っています」
彼は、真剣なまなざしで
先生の言葉を受けとめ、
深くうなずいてから
静かに話し出した。
「ありがとうございます。
せいかが学校生活に
集中できるよう、
できる限り支えたいと
思っています。
僕が責任を持って
見守っていくつもりです」
その一言一言に、
先生もうなずきながら
「大切なのは、
せいかさんが安心して
過ごせる環境だと思っています。
ご本人もしっかり考えて
行動されていますし、
こうして話せてよかったです。
今後も何かあれば、
ご遠慮なくご相談くださいね」
面談が終わって教室を出ると、
次の順番を待っていた
友達が廊下に立っていた。
私たちの姿を見た瞬間、
少し驚いたような、
何か言いたそうな表情を
浮かべていたけれど、
私は軽く手を振って
「バイバイ、また明日ね」
と笑った。
彼はぺこっと会釈してくれて、
それだけでなんだか
照れくさかった
学校を出て
少し歩いたところで、
彼がさりげなく手を
差し出してきた。
私はうれしくなって、
その手をぎゅっと握った。
「ねえ…先生、
ちゃんと私たちのこと、
認めてくれたね」
そう言ったら、
彼は私の頭をぽんぽんと撫でて、
「うん。せいかのがんばりが、
ちゃんと届いてたね。
俺も、なんだか嬉しかったよ」
と笑ってくれた。
不安もあったけれど、
先生のまっすぐな言葉が、
私の背中をそっと
押してくれた気がした。
