昨日、バイト中に社長でも
ある彼のお父さんに呼ばれた。
 『実はね、お母さんが
階段で転んで、
手を骨折しちゃってね』
そう言われて、
思わず『えっ』と声が出た。 





すぐに病院に行ってギプスに
しかも利き手を骨折。
家事は大変になる。 





『こんなこと頼んじゃって
悪いけど、せいかちゃん、
ちょっと手伝ってくれるかな?』
 お父さんがそう言ったとき、
私は迷わず『もちろんです』
と返事をした。




 バイトが終わって、
そのまま彼の実家へ。
 インターホンを押すと、
明るい声で『どうぞー』
と返ってきて少し安心した。





 お家に上がると、
お母さんがソファに座っていて、
 『せいかちゃん、ありがとうね』
って微笑んでくれた。 



 キッチンには少しだけ洗い物が
溜まっていたから、 
『ここからやりますね』
と声をかけて、
さっそく手を動かした。
 冷蔵庫を見せてもらって、
あるもので夕飯の
支度をすることに。 





エプロンを借りて、
野菜を切っていたところに、
 彼とお父さんが帰ってきた。 
 彼が私の隣に来て、 
『せいか、ありがとう。
なんか、実家にお嫁さんが
来たみたいだね』って、
 ちょっとからかうように
言って笑った。 





 顔が一気に熱くなって、
思わずうつむいてしまったけど、
 それでもうれしくて、
『お嫁さんにはまだ早いよ〜』
って照れ笑いしながら、
料理を続けた。





 夕飯は、私と彼も一緒に食卓へ。
 彼のご両親に自分の
作ったごはんを
食べてもらうのは緊張したけど、
 『美味しいね〜』って
笑ってくれてほっとした。 





彼もニコニコしながら、
 『でしょ?せいかの料理、
美味しいんだよ』
なんて言ってくれて、
 なんだか、じんわり胸が
あたたかくなった。




 夕飯のあとには、
翌朝用のサンドイッチも
作って冷蔵庫に入れて、 
片づけまできちんと
済ませてから帰ることにした。 




帰り際に『ありがとうね』
『ほんと助かったわ』って、 
ご両親に何度も言ってもらえて、
 手伝いに行ったはずなのに、
 あたたかく
迎えてもらったことで、
私のほうが
うれしくなってしまった。 




 帰りの車の中、
運転する彼がふいに言った。
 『せいか本当に助かったよ。
ありがとう、感謝してる』
その言葉がじわっと心に染みて、
私は『なおやさん』って
呼んで助手席から
彼の手を握った。
 しっかりと握り返してくれる
彼の手にやさしさを感じた。




 お母さんの骨折は、
治るまで1ヶ月くらい
かかるらしい。
 その間、できるだけ
手伝いに行こうと思う。 
少しでも力になれたら嬉しいし、
大好きな人の
大切な家族だもん。
 私のできることを
ちゃんとやりたいって思った。