今では会社で彼と
普通に話せるし、
タイミングが合えば
一緒に帰ることもできる。
でも付き合ってることを
誰にも言えなかった頃は、
ほんとに毎日、
心臓がもちそうになかった。
あの日も、
給湯室で紙コップに
紅茶を入れてたら、
すぐ後ろから、
彼の低い声が響いた。
『今日の髪型ちょっと違うね。
似合ってるよ』 って。
振り返ると、
彼はいつも通りの顔で、
でも目だけ確実に笑ってた。
「ちょ、ちょっと
やめてくださいよ」 って
私はあわてて
声をひそめたけど、
彼は「ただの感想だけど?」って、
しれっと言った。
その直後ドアが開いて、
彼の同僚が入ってきて
『ふたりって仲良いよね』
そう言われて、
私は顔が固まった。
だけど彼は
『んー、そうかな?』って
軽く笑ってかわす。
もう私は心臓バクバク。
笑ってその場を
ごまかしたけど
顔の熱さたぶん
バレてた気がする。
誰にもバレないように、
言葉を選んで、
距離もちゃんと守ってた。
触れたいけど触れられない。
名前も、呼び方すら、
気を抜けない。
だけどほんとは、
ちょっとだけ言いたく
なるときもあった。
「なおやさんが
私の彼氏です」って。
誰かに胸張って
自慢したくなるときもあった
でもずっと我慢した。
バレたら全部
おしまいになるから
この関係を守りたかったから。
誰も気づかないところで
彼の姿だけを
そっと盗み見る。
そんな時間に、
好きがどんどん
膨らんでいった。
今では懐かしい思い出。