会社の駐車場で、

毎年恒例の七夕祭りがあるらしくて、
今年は私も「おいでよ」って誘われた。

もちろん、行くに決まってる。

 

 

 

 

 

女性たちは浴衣を着て、

社員の人たちにお酒や食事を

振る舞うのが恒例みたい。
ちょっとだけ

「接待みたいだな」

って思っちゃったけど、
それでも、私も浴衣に着替えて、
いつも下ろしてる長い髪を、

おだんごにまとめて参加した。

 

 

 

 

 

 

お手伝いは、焼きそばを手渡しで配る係。
「はい、どうぞ~」

って笑顔でやってたけど、
暑くてちょっと汗かいちゃった。

 

 

 

 

 

やっと一段落して、

自分の分の焼きそばを持って座ったとき、
ふいに背後から声がした。

 

 

 

 

 

「お疲れさま。これ、オレンジジュース」
差し出された紙コップと、

横に並んで座ったのは、なおやさん。

 

 

 

 

 

一気に心臓が跳ねた。
やばい、ドキドキする…。
でも、ちょうど

あたりは暗くなってきてて、
顔が赤くなってるの、

たぶんバレてない。

…たぶん。

 

 

 

 

 

「いつも制服だから、

浴衣姿、新鮮。
すごく似合ってるよ」
彼がそう言って、やさしく笑った。

 

 

 

 

「ありがとうございます。
誰も褒めてくれないから、

似合ってないのかと思ってました〜」
そう答えたけど、

実はちょっと、期待してた。

 

 

 

 

そしたら彼はさらっと言った。

「そんなことないよ。

みんな見とれてたよ。
高校生には見えないくらい、

大人っぽくて綺麗だった。
俺は、目が離せなかったよ」

 

 

 

 

そんなストレートなこと

言われたら、もう無理。
耳まで真っ赤に

なってたと思う。

 

 

 

 

「また〜、お世辞が上手なんだから。
“目が離せない”なんて言われたら

…私、勘違いしちゃいますよ」

そう言ってちょっと

だけうつむいたら、

 

 


彼は、わざといたずらっぽく笑って、

「勘違い?ん〜、

そうなのかもね」

 

 

 

「え、どういう意味ですか?」

って聞いたのに彼は何も答えず、
立ち上がって、

そのまま歩き出そうとして

私の耳元で、ふいにつぶやいた。

 

 

 

 

「好きってこと、でしょ」

 

 

 

 

 

そう言い残して、

彼はそのまま離れていった。

その場にぽつんと残された私は、
もう心臓がどうにかなりそうで。

“今、好きって言ったよね?”
“聞き間違いじゃないよね?”

焼きそばの味も、

ジュースの冷たさも、

全部どこかへ飛んでいった。
夜空を見上げながら、
私はそっと、胸に手をあてた。