昨日の夜はコンサート。

オペラシティ、19時、東京シティフィル、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」。

ということが柱として何日も前から決まっていたので、

そこに向けて一日を過ごすことにしていた。


さらにさかのぼると、映画「オーケストラ!」の公開が4月中旬にあると知り、

映画のチケットを手にした段階で、映画会期中に東京都内で行われるコンサートで、映画の主題として使われているチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴かせてくれるものを選定し(運よくひとつだけあった。それが昨日の演奏会だ)、チケットを取ったのである。


ちなみにここでも何度か書いているけれども、

私がもっとも好きな作曲家はチャイコフスキー。彼の作品のなかでもっとも好きな楽曲はヴァイオリン協奏曲2番と悲愴で、この2曲は毎年、絶対に、生で聴くことにしている。

気に入りの、あるいは気になっている演奏家によるコンサートがあれば最高だが、そうでない場合でも(もちろんそうでない場合の年のほうが多いのだが)必ず一度は聴きにいく。

さてそんなわけで、その2つのチケット・・・映画と音楽と・・・を手にしたときから、

4月21日水曜日は映画を見た後にコンサートに行く、ということを決めており、

ここ数日はそれに向けていろいろなこと、主に仕事を調整してきた。


しかしちょっとしたバタバタが続いており、

とにもかくにも昨日は(平日ではあるけれども)一日、完オフ!と決めていたものの

急に入った仕事や別の仕事のトラブルを解消したりするために

メールを何本かしたり、電話もあちこちにかけないといけなくなり、

それらをこなしつつ映画とコンサートを楽しむはめになった。

これでは完オフとはいえないが仕方ない。


朝、いつもどおりの家事やら仕事やらをしたあと、

昼過ぎの回の映画「オーケストラ!」を渋谷文化村のル・シネマで見る。

「オーケストラ!」はとても混んでいた。

1時間半ほど前に劇場に着いて受付をしたら既に案内順100番、後ろのほうである。

前のほうの席で見る映画はとてもつらい。できるだけ後ろの席が空いているといいなと思いながら一旦、ル・シネマをあとにし、地下のドゥ・マゴ・パリでランチをとる。


文化村に行くときはたいていいつもドゥ・マゴ・パリによってしまう。

たいしておいしくもないし、地下なのにオープンテラス風にしていたり、変なふうにヨーロッパを気取っているところもちっとも好きではないのだがどうしてかいつも寄ってしまう。

(あのサービスの悪さや注文した料理が出てくるのが遅いとところまでヨーロッパの都市にあるこじゃれたカフェの真似をしているのならそれはそれでたいしたものだ)

昨日は昨日で「食後に」とお願いしていた珈琲が思いっきり食前に出てきた。

それも私が「食後に」とことわっておいた男性が食前に持ってきて、テーブルに置いた瞬間に間違いに気づいたらしく「申し訳ございません、食後でしたよね」という。

「はい、食後です」と私。

ふつうの店なら「では食後にお持ちしますね」と珈琲を下げようとするし、だからこそ「いいですよ、置いておいてください、そのままで」と心ならずも私だって言える。

どんなに食後にゆっくりとあたたかい珈琲を飲むことを楽しみにしている私にだってそれくらのことは言える。

しかしさすがドゥ・マゴ・パリ。

「申し訳ございません、食後でしたよね」といって珈琲を置いた男性は、珈琲を置いてそのまま立ち去ったのだった。

さすがだ。さすがドゥ・マゴ・パリ。

もう二度と行くまい・・・とまたしても誓う。


時間が来たのでル・シネマへ。

1人だけあって、ひとつだけぽつんと空いていた後ろのほうの席に座ることができた。よかった。


「オーケストラ!」は公開前からとても楽しみにしていた。

ブレジネフ政権時のユダヤ人音楽家排斥に抗し(たとされ)、名門ボリショイオーケの主席指揮者の座を引きずり降ろされた主人公は、それから30年間、いつかオーケで指揮を取ることを願いながらコンサートホールの掃除夫をしている。そんな主人公が、ある一枚のファクスを手にしたことから、かつて共にボリショイオーケを排斥された仲間をひとりひとり集め、オーケを再結成し、パリで公演を行うことになるのだが・・・というようなストーリー。

コメディなのだがソビエトで実際に起こった事件をモチーフにしていたり(だから実際にこうした境遇の元音楽家達はたくさんいるのだと推察される。もちろん音楽家以外にも)、また要所要所にきらりと光るエピソードがたくさんあって、なかなかいい映画だった。

元コンサートマスターの男性に、独演する女性ヴァイオリニストが「倍音を教えて」というシーンとか。主人公の奥さんが迷う夫を送り出すシーンとか。最初は息があわなかったチャイコのヴァイオリン協奏曲が独演者のヴァイオリンの音色でひとつになるところとか、「本当の」ボリショイオーケのマネジャーが演奏会に乗り込んできたときの、往年のマネージャーのふるまいとか。

「チャイコフスキー。それ以外はなんでもいい」というシーンなども個人的には気に入った。


映画の最後の15分ほどはずっとヴァイオリン協奏曲です。素晴らしい。

あれは誰の演奏なのだろう?

映画全編を通して、音楽の素晴らしさ、音楽というものの素晴らしさ、音楽にかかわるひとびとの素晴らしさに胸がつまり、最後はずっと涙、また涙。


映画の後はせっかく渋谷にいるんだしということで、「名曲喫茶ライオン」へ。

実は「ライオン」は初めてである。

そもそも渋谷が苦手なので映画や音楽などの用事がない限りは行かないし、まして「ライオン」のある地帯ってちょっと足を踏み入れるのに私などは躊躇してしまう場所。

それでも勇気を振り絞って?百軒棚へ行くと、「ライオン」のなかだけ別世界。

ちょうどコンサートタイムで、フィッシャー=ディースカウがドイツ歌曲を歌っていた(もちろんレコードですが)。

コンサートの後はストラヴィンスキー。

ちっとも読書には向かないが、持参していた「1Q84」BOOK2のつづきを読む。

1時間と少し本を読んだあとはオペラシティのある初台へ移動。

初台の商店街で、夫にお土産の和菓子を買ってから、オペラシティのコンサートホール、タケミツメモリアルへ向かう。

タケミツメモリアルホールは音響がとてもいいと思う。


さてコンサートがはじまる直前に残念なお知らせ。

なんと予定されていた指揮者(イジー・シュトルンツ)がアイスランドの噴火による影響で飛行機が飛ばず来日できず、代役になるとのこと。

代役はマイケル・フランシス。マイケル・フランシス・・・どこかで聞いたなあ、しかもあの顔・・・と思っていたら、やはりムターと最近よく帯同している指揮者だった。

アンネ=ゾフィー・ムター。確か4月の中旬に来日するといっていた記憶がある。

この緊急時に、しかも同じくヴァイオリン弾きのムターとしばしば帯同している指揮者を捕まえることができたのは幸運だろう。

(そういえば恩師、O教授は旅先のお店で偶然ムターが弾くバッハのヴァイオリンコンチェルトを聴き、さらに偶然、彼女が来日公演で同曲を弾くことを知ってチケットを取られたと日記に書いてあったはずだ。ムターは何年か前に聴きにいったことがあるが、とても良かった。今回の演奏会も素晴らしいものだといいですね)


昨夜の演目はスメタナの「売られた花嫁」、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」、ドヴォルザークの9番「新世界より」。


チャイコのヴァイオリン独奏は有紀・マヌエラ・ヤンケ。

初めて聞く名前だが、パガニーニ国際でもチャイコ国際でも最高位とか上位入賞を果たしている若手の注目株らしい。へええ。

きっとこれからもっとうまくなるだろう。頑張って欲しい。

東京シティフィルは、うーん、どうなんだろう・・・あまりオーケのことは分からないのだけれども弦はいんだけど管がなあ・・・という印象だった。でも丁寧に頑張って弾いていたのは好感が持てる。

マイケル・フランシスは若手らしい、溌剌とした振りだった。


それにしてもこういう、ローカルオーケというか、の演奏会に行くたびに気になるのは

「このひとたち(オーケの構成員)はふだん何をしているのか」ということだ。

興味ということではなく、心配、という意味で。

つまり平たくいうと、彼らは演奏会活動だけで食べていけるのか?ということ。

もちろん食べていってほしいし、食べていくべきだと思う。だって彼らはプロなのだから。

でも実際は景気の悪さや日本人の音楽を含めた芸術というものへの理解や関心の不足から、

心ならずもオーケストラの演奏とは直接のかかわりのない仕事をしているひともいるのではないかと思うのだ。

そういう仕事も血肉となり、音楽の素晴らしさに反映されているのならもちろん私の心配なんて余計なことなのだが、もしもそうでないとしたら・・・私にたくさんお金があったら、と思うのはこういうときだ。

でも残念ながらたくさんのお金はないから、せめて自分が足を運べる範囲のローカルオーケの演奏会に年に何度かは行くようにしてる。


心配はさておき、昨日の夜はきちんと音楽を堪能し(もちろん正直いえば言いたいこともたくさんあるけど、それを望んでいい演奏会と望んではいけない演奏会があって、今回の場合は完全に後者だから、好きな音楽が聴けて、演奏家がみんな頑張っていたこと、それで十分なのだ)、帰宅。


一日晴れと聞いていたのに雨が降っていて、

それもひどく降ったあと、のような状態。

びっくりしてタクシーの運転手さんに「雨が降りはじめたのはいつですか?」と聞くと、

1時間半ほど前とのこと。

「今日、雨降るなんて言ってなかったのにね」とおっしゃるので

「本当ですよ、洗濯干してきちゃったのに。しかもウチは庇がほぼないのに」といったら激しく同情された。


夫は大学院の日なのでまだ帰っておらず、

帰宅後に土産の和菓子を食べながらコンサートの話などをし、大学院の話を聞く。



朝ごはん。

なし。


昼ごはん。

ドゥ・マゴ・パリにて生ハムのサラダとバケット。


晩ごはん。

カレー(昨日の残り)。


村上春樹の「1Q84」BOOK2を読了する。

やっとBOOK3に突入できそうだ。やれやれ。