スタッフの仕事のあがりが予定よりかなり遅延していて
すごくやきもきしている。
が。いかんともしようがない。
ということで結婚式関連の買い物をしに
新宿へ行く。
先日買い忘れたものをいくつか。
結婚式当日の行き来に着るワンピース、とか。
恋人用のハンカチ、とか。そういうもの。
最近、気に入っている高島屋でだいたいの買い物を済ませ、
和装の小物を見にちょっと伊勢丹に行ってみようかなと足を伸ばす。
伊勢丹の直前で信号待ちをしながら
ぼんやりと向かい側の信号待ちのひとの群れを見て。
驚いた。
ひとごみのなかに。
ずうっと昔。もう15年近く前に付き合っていたIさんが立っていたのだ。
昔と同じように。すごく高い背をすっきりと伸ばして。
昔と同じように。ひざまであるコートを着て。大きなビジネスバッグを持って。
Iさんのこと。
Iさんとのこと。
さすがに私も30も半ばを過ぎているので
人並みに(いやもしかしたら人並み以上に)
何回か恋愛をしているわけなのだが
私のこころのなかに
もっとも禍根を残してしまったのが実はこのIさんとの恋愛である。
禍根も。もちろんそれだけでなく、懐かしい思い出も。
もしも人生をやり直せることがあるとしたら。
あるわけないのだけれども
Iさんとは絶対に恋愛をしない。
出会わなければよかったひとなんているわけないけれども
でもIさんとは出会わなければよかったとこころから思う。いまでも。
それは嫌だから、とかそういうことではない。もちろん。
社会人1年目で恋をしたIさんは
職場の大先輩だったひとだ。
いまの私よりもさらにとしうえくらいだったから
当時の私にしてみたらとても大人に感じたし
実際に大人の部分も多かった。
とりわけ芸術や、食事や、ふたりやひとりの時間を「楽しむ」というに対して投資する、ということ
・・・それは時間もお金も・・・を
私に最初に教えてくれたのは紛れもなくIさんだと思う。
そう。
もちろん感謝もしている。
いまの私をかたちづくるもののひとつは、やっぱりIさんの影響もあるのだ。
3年ほど付き合って、いやなこともうれしいこともたくさんあって
でもなによりも。
どうにもならないことが多すぎて。
最後は結局、私からさよならをした。
そのときにはIさんは既に会社を辞めていたから
Iさんとはもうずうっと会っていない。
風の噂、も全然聞かなかった。
たぶん当時まわりにいたひとたちが・・・そのひとたちとはいまでも時折会っているのだが・・・
敢えて私の耳には入れないようにしてくれていたのだと思う。
あのとき。すべてを失ったのは
Iさんも私も一緒だった。
おこがましいけれども。
私がいつまでも結婚できなくて子どももできないとしたら
それはたぶんIさんとのことで神さまが罰を与えているのだと
私は本当に思っていた。
恋人から結婚を申し込まれたときに
ああもしかしたら赦されたのかも知れないと思った。
神さまに。10年のときを経て。
だから、いま。
こうして横断歩道の向こうに
Iさんの姿をみとめて。本当に。驚いた。
ひとごみの中ですれ違う。
気づかれないようにそうっと端のほうを通っていた私に
たぶんIさんは気づかなかったと思う。
気づいていて欲しくないと思う。
元気そうでよかった。
しあわせでいるかはわからない。
でも少なくとも生きていて、この東京で生きていて、
どうやら仕事もしているようだった。
そのことがわかってよかったと思う。
どうしているのかなとずうっと気になっていた。
元気でいるのかな。
Iさんが失ったものはもう取り戻せていないと思うけれども
違うなにかを手に入れてくれていたらいいな。と。
そうして約束を守れなくてごめんなさい。と。
そんなふうにも思っていた。
だから今日。
私のことなんて全然気づかずに去っていく後姿に。
そう祈って、そう謝った。
このタイミングで会えたのは
たぶんきっと。
神さまからのプレゼント。