恋人と私が日参している喫茶店(銀座ルノアール中野北口店)には
他のルノアールと同様に、実に多様なひとびとがやってくる。
のだが。わけてもピカデリーはすごい。

ピカデリー。
もちろん本名ではなく、某お笑い番組にたまに登場する、
ピカデリー梅田という名前のおじいさんに容姿が似ていることから、
恋人と私がそう呼んでいる、だけなのだが。


ピカデリーのなにがすごいかというと、
そのお洒落さである。

齢、おそらく70数歳。
しかしてピカデリーは、ただのいちども、気を抜いたファッションで来店したことがない。

ジャケットにきちんとアイロンのあてられた同系色のシャツ。
折り目の美しいスラックス、そしてジャケットと同じ色の革靴。
ジャケットに合わせた色のつばつきの帽子。
薄い色つきのサングラス。

週に数回、ルノアールで見かけるが、
ピカデリーのそのスタイルは変わらずに、いつだってぴしっと決まっている。

いったい何種類の帽子とジャケットとシャツとスラックスと靴を持っているのだろう?

そうしてピカデリーはたいていの時間、
眠っている。

家で寝たほうが良いのでは?
と思うくらいに眠っているのだが、
家で読んだほうが良いのでは?というくらい喫茶店で本を読む時間が好きな私は、
なんとなくピカデリーの気持ちがわかる。

そうして今日も。
ピカデリーはいかした恰好でルノアールのソファに座る。
背筋はいつだってまっすぐだ。

いいなあ、ピカデリー。

私もあんなおじいちゃん、にはなれないからおばあちゃんになりたい。
背筋がぴんと伸びて。
喫茶店でゆっくり珈琲を飲むような。

式までにやることリスト、的なものがプランニング会社の担当の方から届き、
恋人はすっかり戦き(うわっめんどくさっとのこと)、
じゃあ私が全部決めるね!AとBとどちらがよい?というときだけ相談に乗ってね、
といったらすごく喜んでいる。

私はこういう事務処理的なことや、なにかを決めたり選んだり手配したりすることが
実はとても好きで、むしろ率先して行いたいほうなので、
すっかり我が意を得たり。な気分だ。

佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」を読了する。