看板をつくるひとをみた。
病院のはすむかいにあるビルのてっぺんで、
そのひとたちはおおきな看板にビールのグラスを持ったおとこのひとの特大の笑顔をはりつけて
おおきな文字が並んだ古い絵をはがす。

おおきな看板のてっぺんに、梯子の上の部分を引っかけただけで、
つまり下は宙吊りの梯子で、
登ったり降りたりしながら
さあっと古い絵を剥がし、
ぺたぺたと新しい看板の絵を貼る。

さあっ。ぺたぺた。
さあっ。ぺたぺた。

高いビルの、さらにてっぺんで、
あのひとたちは怖くはないのかな?
ずいぶんと軽やかに、私には見える。

私はああいう仕事だけは絶対に無理。
あとビルのガラス拭きとかも。

と、一緒に見とれていた恋人にいう。

私は高いところがあまり得意ではないのだ。
苦手、というほどでもないのだけれど。

ほんまやなぁと恋人は
半分聞いていない声でこたえる。

一緒にしばらく看板をつくるひとを眺める。
こちらのビルからは音が聞こえないから
遠くのサーカスを見ているように
それはどこかしら幻想のようで
夏に近い陽射しのしたで、
ひらひらときらきらと。
とてもまぶしい。