今日はちょっとした記念日である。


記念日。

というか。


ついに。というかなんというか。

新卒以来勤めていた会社への、

今日が最終出社日、だったのだ。


実際に退職するのは4月末日だし(つまり明日から有給消化)

その前から違う仕事もしていたし(まあ部署公認ではあるのだけれど)

いまの部署の仕事もまだひとつ残っているし

一方でまだ人事上は私の退職は公開されていないことや

諸事情がありひっそりといまの部署を去ることにしているので

セレモニーは固辞させていただいている。

そのためなんとも中途半端な最終出社日、ではあるのだが。


それでも今日が、最終出社日。


上長との面談の1時間半ほど前に

最寄の駅に着いてしまったので

なんとはなしに対面にあるビルの喫茶店に入り

その出来立ての高層ビルを眺める。


まあたらしいビルに会社のほとんどが移転するちょっと前から

私はいまのような形態・・・要は在宅勤務にさせてもらっていたので

月に1度の上長や上司との面談、ちょっとした打ち合わせ以外に

足を運ぶことはほとんどなく

だからあのビルに対しての感懐はほとんどない。


感懐がほとんどないビルの40階近くの…

最後にいた部署の場所を眺めながら

ああいまごろはみんな。働いているんだなと思う。


30歳でフリーのエディターとして独立する。

そのための知識と経験を身に就けたい。

そんな生意気なことをいって入社した会社に、

結局は35歳までいた。


33歳で思いがけない病気をすることになったけれども

ともかく33歳まではすごく働いたと思う。

フリーのエディターになるはずが、気がつけばWebの仕事のほうが長くなったけど。


単純に楽しかったのだ。いま思えば。

働きすぎとか、仕事にしか興味ないと思ってたとか、夜を徹して仕事をしているとか

そんなことばかりいわれてきたけれども

もちろん一年中、忙しかったわけではないけれども

密度の濃い仕事を、長時間、しているときのほうが楽しかった。

そう。楽しかったのだ。仕事が。


誰がなんといおうと。

私は私の会社が好きだったし、

ある意味、学生の頃から憧れていた会社でもあった。


実際にいい仲間にも一生涯の友だちにも優秀な先輩にもかわいい後輩にも素晴らしいブレーンさんにも

上司にも上長にも恵まれたし

なによりいい仕事を、やりたい仕事を、たくさんしたと思う。

嫌なこともたぶんあった。

仕事ができない自分がつらくて悔しくて恥ずかしくて

トイレで泣いたこともあった。

こんなことしていてなんになる?私のために?世の中のためになっている?と悩んだことも。

当然、数え切れないくらい。たくさんある。


それでも。総じて楽しかったのだ。


だから「30歳」と決めていたのに辞められなくて今日まできた。

でもまあ、いっか。辞めても。

そう思ったのは33歳のときだ。

病気を機に、自分の人生を考えるきっかけができて、

だから自ら退職するということを選んだのだが、

それでも。退職届が届いてから、そこにサインをするのに1週間かかった。

辞めるということを自分で決めたにも、かかわらず。


ああ私、やっぱりこの会社が好きなんだなあ。

とすごく思った。

それくらい好きな会社、好きな仕事、好きな仲間と出会えたことは

誇りに思うべきだろう。きっとそうだろう。


最初に「辞めたいんです」といってから2年近く。

そのあいだずっと。質実ともに引き止め続けてくれた上長にも上司にも感謝。


ただまだ。

お疲れさまでした>私。

というふうには思えなくて、

泣いちゃうかもなーと思っていたのだけれどもそういうこともなくて、

それはいま新しくはじめている仕事があるせいもあるだろう。

結局、フリーで仕事をする、という目標を。

エディターではないけれども。

さらに目標より数年遅れだけども。実現することになるのだ。

目標とは違うけれども

目標にしていた自分よりもいまの自分のほうが好きだ。

やれることも増えた。やりたいことはもっと増えた。

それは掛け値なしでそう思う。


もちろんフリーで仕事をする=フリーで食べて行く、ということだ。

大変なこともたくさんあるだろう。

それにこのご時勢にサラリーがなくなる道を、敢えて選ばなくても?といわれるけれども

それでもやっぱり、そうしたかったのだ。


12年、この会社で働いたんだなと。そうなんだな。

たかだか12年じゃないか。そう思うひともたくさんいるだろう。

でもこんなにも密度が濃くてマウスイヤーといわれた会社にいた12年間は

それでもあっという間で。

そう思ったら少し。やっと。泣きたくなった。


今夜はこれから

新しい仕事を一緒にしている恋人と、それから末弟と、

3人でひそやかにお疲れさま会をする。

この新しい私のフロアで。

「いやー誰も祝ってくれないと思ってたから、自ら祝おうとケーキを買ってきた」といったら、

恋人がせっかくだからと雨の中シャンパンを買いにいってくれた。


そうだよね。

せっかくだから。お疲れさま>私。

楽しい会社員生活だったよ。ありがとう。