雨。


思ったよりも雨脚が早かったので

傘を買う。


雨は苦手。

でも傘は好き。


今日の服や小物や気分に合った傘を傘たてから選んでいるとき

私はとても幸福な気持ちになる。

だからだろうか。

私の傘たてには何本も傘がある。


中学生や高校生や大学生だったころ。

早く仕事がしたかった。

すべて自分で稼いだお金で食べたり飲んだり遊んだりしたかった。

親に迷惑をかけたくないというような殊勝な動機ともちょっと違う。

自分でやっていきたかった。


働きはじめてから。

はじめてのお給料で買ったものは

両親へのちょっとしたプレゼントと

職場のひとたちへのお菓子だった。

あとは食費などで消えてしまって、

2回目か3回目のお給料で、はじめて自分のために買った

「きちんとしたもの」が、傘だった。


1万円に近いかそれ以上のお金を、たった1本の傘にかけることは

当時の私には信じられなかったし、

でもだからこそ、きちんとした傘が欲しかったのだ。


いまでもその傘を

私はときどき使っている。

白地に大きくて鮮やかなグリーンの果物がプリントがされた

すごく素敵な傘。

ちょっとだけラメが入っていて、暗い雨の日もきらきらと光る。


あれから10年以上経って

傘は何本かに増えた。

自慢ではないが傘をなくしたことは一度もない。

ただ強い風やなにかで壊れたことは何度かある。

それでもはじめてのあの傘だけは

なぜか絶対になくならないし骨が折れたりもしない。絶対にだ。

だからいつまでも私の傘たてにおさまって

あのころの私をときどき思い出させる。はじめてでいっぱいだった私のこと。