学生くんが、就職するまでになにをしたらいいと思いますか?というので
芸術に触れなさい、ということを話した。
美術。音楽。建築。文学。
そういうものの、本物に触れること。
もともと建築学にすすもうかと思っていた子だったりするので、
美術や建築については自分で探せるそうなのだが
ではどんな本を読んだらよいでしょうか?おすすめはありますか?
とさらに聞かれて、ではおすすめの本をいくつか見繕おうと安請け合いをしてしまった。
これがまた大変である。
私はまあわりと本を読むほうだと思うのだが、
学生(25歳の理系の大学院生の男の子である)に、
これは文学ですよ、と渡す本、である。なんて難しいことだろう!
しかもこれまでほとんど小説やエッセイは読んだことがないというので
あまりがっつりしたものを渡してムズカシイ!と敬遠されてしまうよりも
これをきっかけに本を読むことを好きになってほしいという下心がある。
悩んだ末に、好きな作家の好きな本を1冊ずつ、選ぶことにする。
しかしこれもまた難しい。
たとえば村上春樹。好きなのはたくさんあるのだけれども、
「村上春樹の最初の一冊」にふさわしいのはなんだ?
私が好きな「国境の南、太陽の西」では、絶対にないだろう。
「ノルウェイの森」をすすめるひとは多いかも知れないけれども、
最初に読むべきかとういとそうではない。あくまでも主観だけど。
村上春樹を好きになって(少なくとも嫌いにはならなくて)、
そうして本を読むことが好きになるための一冊。
いろいろ考えるとわけがわからなくなるので、ままよ!と書店に行って、
「課題図書」を選ぶことにする。
選びはじめたら案外早くて、結局、こんな感じのラインナップになった。
田口ランディ「根をもつこと、翼をもつこと」
沢木耕太郎「深夜特急」
宮本輝「ここに地終わり海始まる」
村上龍「愛と幻想のファシズム」
トルストイ「光あるうち光の中を歩め」
宮沢賢治「銀河鉄道の夜」
太宰治「グッド・バイ」
重松清「流星ワゴン」
浅田次郎「ラブ・レター」
さだまさし「解夏」
吉本ばなな「キッチン」
江國香織「きらきらひかる」
武者小路実篤「友情」
山崎章郎「病院で死ぬということ」
ヘミングウェイ「老人と海」
ドストエスフキー「罪と罰」
サン・テグジュペリ「星の王子様」
川上弘美「センセイの鞄」
小川洋子「博士の愛した数式」
リチャード・バック「かもめのジョナサン」
オノヨーコ「グレープフルーツ・ジュース」
有島武郎「生れ出づる悩み」
遠藤周作「海と毒薬」
阿部公房「砂の女」
灰谷健次郎「兔の眼」
そして。
村上春樹は「風の歌を聴け」を選ぶ。
夏目や芥川があってもよかったかなとか
老人と海は退屈じゃないのか?とか(実際、高校生のときに読んだら退屈で放棄したことがある)
小説だけでないのならば詩や俳句や短歌を入れてもよかったのかなあとか
思ったりもしたけれども。
やっぱりこの本にすればよかったかな、と自宅の書棚を前にすると少しは思うけれども。
それでもこのなかのひとつくらいなら。
読んでよかったと思える本があるだろう。きっと。
課題図書なんてなくても
本を読みたいと思える日がくるだろう。きっと。
そんなふうになったら
とても幸せなことだと思う。