バレンタイン・デイというのはやはり、
愛とか恋とかにまつわる思い出に満ちているらしく
友だちや知人の日記には、そんな思い出を書いているものが目について
すごくあたたかい気持ちになった。
せつない恋でもいまもつづく愛情でも
どちらもそのときどきの気持ちがたくさんあふれている。
ちょうど先ほどまで読んでいた小説も
初恋をテーマにした本だったこともあり
そういえば私の初恋はなんだろうと、ランチをとりながら思いをめぐらせる。
初恋のこと。
初恋を明確に記憶しているひとはいったいどれくらいいるのだろうか。
あるいは「あれが自分の初恋です」と言い切れるひと。
正直にいって、私は自分の初恋がよくわからない。
小学生のときは目立つクラスメイトどうしはなぜか「カップル」ということになっていて、
そんなクラスメイトたちの話題についていきたいあまり、○○くんがいいなというようなことをいったら、
その男の子と「カップル」ということになってしまった。
はっきりいってぜんぜん好きでもなく、というよりも、好きだという気持ちなんてわからないから、
はやされても迷惑だなとしか思えなくて困った。
中学生のときも同じようなもので、
とりたてて特別な感情は持っていないのに、
友だちの「カレシ」の友だちを好きといっておけばいいのかな?というような
よこしまというかいい加減な気持ちでそんなことをいっていたら、
これまたいつのまにか「カップル」に仕立て上げられてしまった。
素敵だなあと思う先輩もいたし、同学年の男の子もいたのだけれども、
そのひとたちに対して、では「好きです」というような強い感情を持ったかというとそうでもない。
だからどれもこれも初恋ではないのかもしれないと思う。
ただひとりだけ、小学校の6年生のとき、
隣のクラスのコウタロウくんという男の子のことをとてもいいなと思っていて、
バレンタイン・デイにチョコレートをプレゼントしたことがあった。
小柄でものしずかで涼やかな目をした男の子。
コウタロウくんはなにかの委員会の委員長をしていて、
私もなにかの委員会の委員長だか副委員長をしていて、
なので一週間にいちど、委員長と副委員長が全員あつまる会議で顔をあわせていた。
そうしてコウタロウくんには、コウタロウくんが委員長を務めている委員会の副委員長のアキちゃんという、ものすごーくかわいい女の子のことが好きといううわさがあった。
そうしてアキちゃんと私は同じ部活に入っていて、
違うクラスでも部活がある放課後は必ず顔をあわせる仲だったのだ。
だからそのうわさを信じていた私はそれなりに心を傷めてもいて、
直接本人にチョコレートを渡すこともできずに、
委員長や副委員長が集まる「委員会室」という部屋のその男の子のロッカーに、
こっそり買ったチョコレートを、
こっそりこっそり、しのばせておくという計画を立てたのだった。
それも、名前も書かずに。
そうしてバレンタイン・デイの前の日の夕方。
そもそも私の実家の隣が小学校で、子どもたちがみんな帰宅した後とか、週末などに校舎に忍び込むのは比較的容易だったため、放課後に理科室かなにかの鍵をこっそり開けておいて何食わぬ顔でいったん自宅に帰り、夕方にそこから校舎にしのびこんだ。
チョコレートを手に持って!
夕暮れの廊下を、委員会室まで走りに走った。
男の子に直接チョコレートを渡すよりも、学校にしのびこむことのほうがどれほどか勇気がいる行為のような気が
いまでこそするのだが、そのときはもうそれ以外に方法は思いつかなかったのだ。
しかし一世一代の勇気をふりしぼったつもりのチョコレートも
名前も書かずにいたんだから、ひとりで劇的だっただけで、なにも進展することもなく日々は過ぎていく。
ただ誰にも打ち明けていない思いだったのに、どういうわけか小学校の卒業式のときに
隣のクラスの女の子たちに囲まれて、
ナオちゃんてコウタロウくんのこと好きなの?と聞かれ(しかもその場にはアキちゃんまでいた)、
え、そんなことないけど?と狼狽してこたえたら、
そうなんだー。コウタロウくん、ナオちゃんのこと好きだっていってたのに。
コウタロウくんかわいそう~なんて口々にいうではないか。
えええええ。
しかし自分の気持ちを否定してしまった手前、前言撤回することもできず、
そうして中学校に進学してからは学校に行ったり行かなかったりの生活を一時期送っていたため、
いろいろなことがあいまいになり、その淡いことごとはすべてそのままになったのだった。
それにしてもあのときの、
えええええ。早く言ってよ・・・という気持ちを、
なぜかいまでも思い出すことができる私は
かなり執念深いのだろうか。記憶力がよいだけだよと自分を慰めておきたいところだが。
ここまで書いてふと思う。
そうだ、やっぱりこのコウタロウくんとの思い出が
きっと私の初恋なんだろう。
淡くてかわいいちいさな思い出。
愛とか恋とかにまつわる思い出に満ちているらしく
友だちや知人の日記には、そんな思い出を書いているものが目について
すごくあたたかい気持ちになった。
せつない恋でもいまもつづく愛情でも
どちらもそのときどきの気持ちがたくさんあふれている。
ちょうど先ほどまで読んでいた小説も
初恋をテーマにした本だったこともあり
そういえば私の初恋はなんだろうと、ランチをとりながら思いをめぐらせる。
初恋のこと。
初恋を明確に記憶しているひとはいったいどれくらいいるのだろうか。
あるいは「あれが自分の初恋です」と言い切れるひと。
正直にいって、私は自分の初恋がよくわからない。
小学生のときは目立つクラスメイトどうしはなぜか「カップル」ということになっていて、
そんなクラスメイトたちの話題についていきたいあまり、○○くんがいいなというようなことをいったら、
その男の子と「カップル」ということになってしまった。
はっきりいってぜんぜん好きでもなく、というよりも、好きだという気持ちなんてわからないから、
はやされても迷惑だなとしか思えなくて困った。
中学生のときも同じようなもので、
とりたてて特別な感情は持っていないのに、
友だちの「カレシ」の友だちを好きといっておけばいいのかな?というような
よこしまというかいい加減な気持ちでそんなことをいっていたら、
これまたいつのまにか「カップル」に仕立て上げられてしまった。
素敵だなあと思う先輩もいたし、同学年の男の子もいたのだけれども、
そのひとたちに対して、では「好きです」というような強い感情を持ったかというとそうでもない。
だからどれもこれも初恋ではないのかもしれないと思う。
ただひとりだけ、小学校の6年生のとき、
隣のクラスのコウタロウくんという男の子のことをとてもいいなと思っていて、
バレンタイン・デイにチョコレートをプレゼントしたことがあった。
小柄でものしずかで涼やかな目をした男の子。
コウタロウくんはなにかの委員会の委員長をしていて、
私もなにかの委員会の委員長だか副委員長をしていて、
なので一週間にいちど、委員長と副委員長が全員あつまる会議で顔をあわせていた。
そうしてコウタロウくんには、コウタロウくんが委員長を務めている委員会の副委員長のアキちゃんという、ものすごーくかわいい女の子のことが好きといううわさがあった。
そうしてアキちゃんと私は同じ部活に入っていて、
違うクラスでも部活がある放課後は必ず顔をあわせる仲だったのだ。
だからそのうわさを信じていた私はそれなりに心を傷めてもいて、
直接本人にチョコレートを渡すこともできずに、
委員長や副委員長が集まる「委員会室」という部屋のその男の子のロッカーに、
こっそり買ったチョコレートを、
こっそりこっそり、しのばせておくという計画を立てたのだった。
それも、名前も書かずに。
そうしてバレンタイン・デイの前の日の夕方。
そもそも私の実家の隣が小学校で、子どもたちがみんな帰宅した後とか、週末などに校舎に忍び込むのは比較的容易だったため、放課後に理科室かなにかの鍵をこっそり開けておいて何食わぬ顔でいったん自宅に帰り、夕方にそこから校舎にしのびこんだ。
チョコレートを手に持って!
夕暮れの廊下を、委員会室まで走りに走った。
男の子に直接チョコレートを渡すよりも、学校にしのびこむことのほうがどれほどか勇気がいる行為のような気が
いまでこそするのだが、そのときはもうそれ以外に方法は思いつかなかったのだ。
しかし一世一代の勇気をふりしぼったつもりのチョコレートも
名前も書かずにいたんだから、ひとりで劇的だっただけで、なにも進展することもなく日々は過ぎていく。
ただ誰にも打ち明けていない思いだったのに、どういうわけか小学校の卒業式のときに
隣のクラスの女の子たちに囲まれて、
ナオちゃんてコウタロウくんのこと好きなの?と聞かれ(しかもその場にはアキちゃんまでいた)、
え、そんなことないけど?と狼狽してこたえたら、
そうなんだー。コウタロウくん、ナオちゃんのこと好きだっていってたのに。
コウタロウくんかわいそう~なんて口々にいうではないか。
えええええ。
しかし自分の気持ちを否定してしまった手前、前言撤回することもできず、
そうして中学校に進学してからは学校に行ったり行かなかったりの生活を一時期送っていたため、
いろいろなことがあいまいになり、その淡いことごとはすべてそのままになったのだった。
それにしてもあのときの、
えええええ。早く言ってよ・・・という気持ちを、
なぜかいまでも思い出すことができる私は
かなり執念深いのだろうか。記憶力がよいだけだよと自分を慰めておきたいところだが。
ここまで書いてふと思う。
そうだ、やっぱりこのコウタロウくんとの思い出が
きっと私の初恋なんだろう。
淡くてかわいいちいさな思い出。