久しぶりにSというレストランへ行った。
大好きなレストランで、からだの調子がおかしくなる前は
本当によく行ったお店だ。
私がレストランに求めるのは。
おいしい料理を出してくれること。
料理の先にあるなにか、が、スペシャルであること。
それは私にとっては、というだけで十分に意味がある。
Sは数少ないそんなお店のひとつだ。
そのお店には、ひたむきに料理に向き合うシェフと
接客の神様とひそかに呼んでいたメーテルドテルがいた。
メーテルドテルの「ようこそ」という声と明るい笑顔に迎えられ、
私は席に着く。
今日はなにをいただこうかととても迷う。
シェフの料理はどれもおいしいとわかっている。
そうするとメーテルドテルはいつも的確に料理をすすめたり、
選んだ料理に対しても、これよりはこちらのほうがと、
そのときどきの気分や状態にぴったりの料理を示してくれる。
そうして選ばれた数々の料理たちはどれも本当においしくてすばらしいものだった。
私が特別だったわけじゃない。
たぶんその店を訪れるすべてのひとに対して、
おそらくシェフとメーテルドテルは同じように接し、
だからその店は、誰にとっても特別だったはずだ。
メーテルドテルがもうすぐ亡くなるときいたのはいつだっただろう。
末期の癌だったこと、それをシェフも親しいお客のひとたちも知りながら、
彼が毅然と店に立つ様子を最後まで見ていた。
最後の最後まで、店に立っていたこと。
私は知らなかった。
知らないで、いつもその笑顔に、存在に、たいせつななにかをたくさんもらった。
私はただの客だった。
それでも教えられたことはたくさんある。
それは彼がもうこの世にいないからではない。
彼がこの世にいてにこやかにSに迎え入れていてくれた、
あの日々に既にたくさんのことを私はもらっていたのだ。
いまでも感謝している。
彼というひとを、知りえたこと。
花を持って、Sにお邪魔した。
最後まで渡そうか迷ったけれども、
シェフと食事のあとに立ち話を…しばらくだね、どうしてたの?うん、ちょっとカラダ壊してて、え、なにそれってもしかして食べ過ぎって病気?そう、そんなところです…などと話しているときに、やっぱり花を渡した。
ただの自己満足だ。
どうして?という顔をするシェフに、
ずっと来られなかったから。
といったら、瞬間、シェフの目は涙でいっぱいになった。
びっくりした。
シェフがとてもあったかいひとだということは
料理を食べればわかる。
料理は怖い。料理にはひとがらが出てしまう。
Sの料理は厳しい。強い。でもあったかい。
だけれども。
ひとまえで涙を見せることはしないひとだと思っていた。
単なる私の勘違いかもしれないけれど。
ああそうか、ナオさん、よく話してたもんね。
ありがとう。
シェフはそういって、お花を受け取ってくれた。
不意打ちをしてしまったのかなと思った。
ふたをしていたものをこじ開けてしまったのかな。
失礼なことをしてしまっのかなと、帰途についたいまも思う。
またきます。
近々に、またゆっくり。
そういって頭を下げたら、
シェフはずっと頭を下げて、そうして見送ってくれた。
ずっと先まで見送ってくれた
メーテルドテルとそのしぐさは一緒だ。
きれいな秋空がひろがる、昼下がりの東京。
大好きなレストランで、からだの調子がおかしくなる前は
本当によく行ったお店だ。
私がレストランに求めるのは。
おいしい料理を出してくれること。
料理の先にあるなにか、が、スペシャルであること。
それは私にとっては、というだけで十分に意味がある。
Sは数少ないそんなお店のひとつだ。
そのお店には、ひたむきに料理に向き合うシェフと
接客の神様とひそかに呼んでいたメーテルドテルがいた。
メーテルドテルの「ようこそ」という声と明るい笑顔に迎えられ、
私は席に着く。
今日はなにをいただこうかととても迷う。
シェフの料理はどれもおいしいとわかっている。
そうするとメーテルドテルはいつも的確に料理をすすめたり、
選んだ料理に対しても、これよりはこちらのほうがと、
そのときどきの気分や状態にぴったりの料理を示してくれる。
そうして選ばれた数々の料理たちはどれも本当においしくてすばらしいものだった。
私が特別だったわけじゃない。
たぶんその店を訪れるすべてのひとに対して、
おそらくシェフとメーテルドテルは同じように接し、
だからその店は、誰にとっても特別だったはずだ。
メーテルドテルがもうすぐ亡くなるときいたのはいつだっただろう。
末期の癌だったこと、それをシェフも親しいお客のひとたちも知りながら、
彼が毅然と店に立つ様子を最後まで見ていた。
最後の最後まで、店に立っていたこと。
私は知らなかった。
知らないで、いつもその笑顔に、存在に、たいせつななにかをたくさんもらった。
私はただの客だった。
それでも教えられたことはたくさんある。
それは彼がもうこの世にいないからではない。
彼がこの世にいてにこやかにSに迎え入れていてくれた、
あの日々に既にたくさんのことを私はもらっていたのだ。
いまでも感謝している。
彼というひとを、知りえたこと。
花を持って、Sにお邪魔した。
最後まで渡そうか迷ったけれども、
シェフと食事のあとに立ち話を…しばらくだね、どうしてたの?うん、ちょっとカラダ壊してて、え、なにそれってもしかして食べ過ぎって病気?そう、そんなところです…などと話しているときに、やっぱり花を渡した。
ただの自己満足だ。
どうして?という顔をするシェフに、
ずっと来られなかったから。
といったら、瞬間、シェフの目は涙でいっぱいになった。
びっくりした。
シェフがとてもあったかいひとだということは
料理を食べればわかる。
料理は怖い。料理にはひとがらが出てしまう。
Sの料理は厳しい。強い。でもあったかい。
だけれども。
ひとまえで涙を見せることはしないひとだと思っていた。
単なる私の勘違いかもしれないけれど。
ああそうか、ナオさん、よく話してたもんね。
ありがとう。
シェフはそういって、お花を受け取ってくれた。
不意打ちをしてしまったのかなと思った。
ふたをしていたものをこじ開けてしまったのかな。
失礼なことをしてしまっのかなと、帰途についたいまも思う。
またきます。
近々に、またゆっくり。
そういって頭を下げたら、
シェフはずっと頭を下げて、そうして見送ってくれた。
ずっと先まで見送ってくれた
メーテルドテルとそのしぐさは一緒だ。
きれいな秋空がひろがる、昼下がりの東京。