なくて七癖、あって四十八癖とはよくいったものだなあといつも感心するのだが、ほんとうにひとはたくさん癖をもっているものだ。

私の恋人にもたくさん癖があって、ほほえましいものもあればあたまにくるものもある。
きっと私も同じようなものだろう。

今日は会社の健康診断を受けることにしていて、
だから朝ごはんは食べられないの。
と、もぐもぐとパンを食べながら、ナオも食べる?ときく恋人にこたえたら、

そっかぁ。
とすごくつらそうな顔をする。
そんなときの恋人は、もともとすこし下がっている眉毛がさらにさがって、
目尻もつられてくいんとさがって、
なさけなさそうというかなんというか、そんな顔になる。

朝ごはんを一食抜くくらいどうってことないよ
だいじょうぶだいじょうぶ

と私は慌ててつけたして、じゃあ行ってくるね、と会社にむかう。
行ってらっしゃいと見送られながら。

恋人はいつもそうだ。
なにか予期せぬ、相手がかわいそうだと思われる事態に陥っているのを目にすると、
そっかぁ。
といって眉毛と目尻をくいんとさげる。

その「くいん」、を目にすると、
私はなんだかいてもたってもいられなくなって、
あるいはもっと「くいん」、になってほしくて、
だいじょうぶだよとか、そうなのぜんぜんだいじょうぶじゃないの、とかいったりする。
ほんとうはだいじょうぶなときでも。

私にもそういうなにかはあるのだろうか。
きっといくつもあるのだろう。
そういうなにかは、お互いに。きっと。

そうしてそういうなにかを、持ち続けたいと。
駅への道を歩きながら、今日も私は思うのだ。