フランス映画というのはなんともはや
わかりにくいというかなんというか。
銀幕が閉じはじめるまで終わりがわからなかったり、
それで?と思うものが多いような気がする。

けっこうな量のフランス映画を見た。
ジャック・タチ。パトリス・ルコント。トリュフォー。キュシロフスキ。
もちろんわかりやすいものもあるし、好きな映画だってたくさんあるのだけれども。

?????

と思う映画が、ほかの映画群よりも多いのはフランス映画というジャンルだ。

そうしてフランス映画はどうしたって、
ものすごく明瞭な言葉でいうところのおしゃれさと、一方で漂うアンニュイさでもまた
他の映画群とは異なって共通しているように思う。

渋谷から松涛に抜ける道で、素敵な喫茶店と出会った。
cafe granite。
まだできて1年くらいらしい。
しかし奇妙にゆるぎない存在感と落ち着きを持っている、なんともいい感じのカフェである。

狭い階段をあがるのに、少し勇気がいった。
どんなタイプの店なのか、まったくわからない。
入り口にメニューリストがあるけれども、よくある類のカフェ・バーのようで、なのではずれではなさそうだがあたりでもなさそうだ。
そんなふうに見受けられる。

しかし。階段をのぼり詰めて店内に入った瞬間に。
この店は「あたり」だと気づく。
そう。ほんとうにその瞬間に。

濃い茶色の、使い古されたようなテーブル。
ちんまりとした椅子。
道路に面して開け放たれた窓から通り抜ける風。
ちいさなカウンターに常連客らしい女の子と、店主なのかどうか、さばっとした雰囲気の女の子がひとり。

全体に古びた印象で、古びているのだけれども汚らしくない。
きちんと計算された、古びというおしゃれさ。
昔から仲のよい友だちが住む、旧いアパートメントを訪れたときのような。
奇妙に懐かしい感触。

カウンターに陣取る女の子以外にひとがいなかったので(途中からけっこう混んだけれど)、
窓際にあるテーブルにつく。
ちいさな椅子のすわり心地がいい。
なんてことない木の椅子なのに。しっくりと肌になじむ。

ふだんはあたたかい飲み物を頼むのだけれども、
手作りジャムを入れた、ということばに惹かれてアイス・ロシアンティを頼む。
すっきりとして上手なお茶。ジャムは自然の味わいがする。

やたらと大きい音をしている音楽も、すごくいい選曲で(レコードをかけている)、それにこの大きさだと、まわりのひとの声が聞こえるようで聞こえない。ちょうどいい具合、なのだ。
それを意図してこのボリュームにしているなら、
あなた天才だよ!と、カウンターの中にいる女の子をちらりと盗み見る。

ずっとここにいられちゃうなあ。

というのが、このお店の感想だ。
そう、ずっといられちゃう。

本でも読みながら。
あるいはぼーっと道行くひとのあたまを眺めて。

気だるいんだけれども、疲れているわけじゃない。
ぼーっと、だるーっと、時間を過ごす。そんな感じ。

フランス映画みたいな店だな。
と思ったのは、ロシアン・ティにたっぷりと入っていたまるのままの苺ジャムを全部食べ終わった頃だ。
そういえば。と思ってあらためて見まわすと。
そこかしこに貼られているのは、フランス映画のポスターや絵葉書だったりする。なるほど。

食べ物は食べていないから、どうなのかはわからないし、
トイレとか全然気を遣っていないのだけれど(突っ張り棒とかあるし)、
でもなんだかまた来たいな、と思わせる店なのだ。

また意味がよくわからなかった…と思いつつ、ついつい見てしまう。
フランス映画とそんなところも似ている。といったらこじつけにに過ぎるだろうか。

とはいえ渋谷はあまり行かない街なので、
この店を訪れることはそんなにないだろう。
でもまた誰かと渋谷で待ち合わせたりすることがあったら、少し早めに行って。
このカフェ・グラニテでのんびり時間を過ごすのもいいなと思う。

#cafe granite カフェ・グラニテ [渋谷区円山町]