2月が終わってすこしほうっとした毎日を送っている。
ほうっとした、といっても。
物理的なことではなくてあくまでも精神的な状態なのだけれども。

2月というのはどうにもいけない。
私はいつもあの年あの日のあたりの気分を思い出してしまう。
友だちからの電話。
不意の電話はいつだってかなしいことを呼んでくる。

不思議な冬だった。
Sは少なくとも私にとっては、そして彼を知っているひとたちにとっては、
もとから永遠だったのに、死んでしまったことでもっと永遠になった。

もう私はSの年齢からずいぶんと離れてしまった。
仕方ない。
来年再来年5年後10年後。20年後。
私はどんどん年をとっていくのだ。

ごめんね。先に行くよ。
私はもうすぐ33になる。
結婚はまだしていないし子供もいないけれど、仕事はたぶんヒトカドのものになったよ。
喫茶店はまだ開いていないけれど、いつか開きたいとはいまでも思っているよ。
ごめんね。私は私の人生を生きていく。
だいたいあのときだって、Sと私の人生は決して重なっていたわけではないんだから。

そんなことを何度ひとりごちただろう。
眠れないベッドの上で。
ざわめくカフェで。
好きなひとの寝顔を見ながら。

なんというか。
そんなふうに今年もまた2月をやりすごすことができて
私は少しまた上手に呼吸ができるようになった。
上手に。楽に。

それでもSのことは消えない。
だからといって誰かを好きにならないわけじゃないし
もうご飯もふつうに食べられるようになった。
ときどき眠れない夜はあるけれど、それはSのせいじゃない。

でもとても好きだった。
一緒に過ごした日々を、私は忘れない。
ごめんね。やっぱり忘れない。