長野、第一夜。

寒い。去年に比べたらずいぶんと暖かいけれど、それでも長野はやっぱり寒い。
一昨日降ったという雪がまだそこかしこに残っている。

新幹線からローカル線にのりかえて数駅。
父が迎えにきてくれている。
秋に帰省しているせいか、いつものようにとしをとったなあとは思わない。
それでもやっぱり。時間が流れたなあと感じる。
白髪が増えた髪。

東京を出るときに、長弟にも夕方には着きそう、と電話をしていたら、それなら実家に顔を出すね、ということになり。
今夜は両親と長弟と4人で晩ご飯。

弟の仕事の話をたくさん聞く。
弟は小児科の医師をしている。
いま重症の患者さんをもっているので、非番の日でも(今日も明日も本当は非番なのだそうだ)毎日病院に行っているとのこと。
それって当たり前のことなのかもしれないけれど、弟が担当になった患者さんは幸せなんじゃないかと思う。

弟はべたべたに甘い医者ではまったくないだろう。
それは姉弟だからとてもよくわかる。
ただ。たぶんとても親身に…患者さんやご家族の身になって働いているだろうと思う。

そうしてそれはほんとうらしく。
患者さんであるちいさな子どもたちにもその母親や家族たち、あるいは看護士長さんなどにも信頼されている。
と教えてくれたのは、私の高校時代の同級生だ。
彼女の娘さんは、うまれつき重度の障害を持つ、弟の患者さんである。

○○先生(弟の名前)は、お母さんはどうしたいですか?って聞いてくれるんだよね。それってとても珍しいことなんだよ。
そしてそのひとことは、母親として、とてもうれしいことなんだよ。
いままでたくさんの先生に診てもらってきたけれど、ナオの弟くんはとてもいいお医者さんだよ。

と友だちは教えてくれた。

先般も。患者を助けたいがあまりに医局と対立しちゃってさあ。大変だったんだよねーなんて長弟は明るくいう。
医局と対立するのは、医療の世界ではとても難儀なこと。
でもどうしても、それでもちいさな命を助けたかったから。と弟は思ったのだろう。
そういえば以前いた病院では、看護士さんの意識と技術の向上のために、勉強会なんかを開いていた。
正義感が強い。心根が熱い。といえば少し格好よすぎるだろうか。
ダメな医者っていっぱいいるけれど、いい医者だっているんだよ。
と、ダメな医者と出会ってしまったという話をひとから聞くたびに思う。

少し話が逸れてしまった。

そんな患者さんや病院のことなどをひとしきり話した夜更けに、明日も病院だから、と長弟は勤務先のそばにある家に帰っていった。

明日の昼には、兄と末弟がそれぞれ帰省してくる。
兄と会うのは一年ぶりだろうか。末弟はときどき会っているけれど、家族みんなで会うのは久しぶりのこと。
ひとつしか違わないのに、年をおうごとに兄は兄らしくなり、年が離れた弟たちはどんどん大人になっていく。
そんな電話やメールでは伝わりきらない、それぞれの「いま」を見られるのも。帰省の喜びのひとつなのだ。
そうして子どもたちを育んでくれた両親に感謝をする、そのことと同じくらいに。

みんなと会える明日を。楽しみに思う。