けんか/あるいは忘れたふりをして。

弟とけんかをした。

けんかとはいえないかもしれない。
私がずっと怒っていたのだから。
怒ったというよりは怒りが沸点に達して（たぶんそれで）悲しくなって泣いてしまったといったほうが事実に近いけれど。
弟はずっといいわけをしていた。
それっていいわけでしょう。といったら電話を切るときにごめんなさいといった。
ごめんなさいをいってほしかったわけでもないのに。

それにしても。弟に対してこんなふうな怒りを感じたのは
いつ以来だろう。
もしかしたら初めてかもしれない。この20年以上にわたる姉弟史上において。

これまでもちいさく頭にくることはあっても
弟の状況や心情や、それ以上にどうしようもなく動かしようがないものどもを思って
堪えたり諦めたりもしてきた。
それなのに。なにがいままでと違うのだろう。

相変わらず定職につかないこと？
いくつかケアし続けてきたこと、それをふいにされたこと？
約束を守らなかったこと？それが続いたこと？

そんないくつかのことが短い期間に重なって、
いい加減にしなさい、という小言を並べてしまって、
言い出したら止まらなくなった。
なんだか恋人にケンカを売っているさえない女みたいだ、いま思えば。
あるいは亭主に小言をいっている妻、とか。
いずれにせよぜんぜんいい気分ではない。ぜんぜん。

ただ実際に、弟に言ったことは、ずっと言いたかったことではあったのだ。
ここ2年間くらい、ほんとうは言いたかったこと。
でも言ってはいけないような気がして、言わなかったこと。

弟は今夜。
気分が悪いと思いながら眠りにつくのだろうか。
あるいは少しは反省しながら

私もたいがいいい気分ではないが、
（言えなかったことを言えたからといってすっきりするものではないし）
弟に比べたらそれでもだいぶましかもしれない。
いやそれもどうだろう。案外すっきりと寝付いているかもしれないな、弟は。
なんてことを電話を切ったあともぐだぐだと考えている。
そこまで言うことなかったかも。とか。

それでも弟は弟だから。
また幾日か経ったら、電話したりメールがきたりするのだろう。
そのときには今日のことはすっかりと忘れて。
明るく話をしようと思う。あるいは忘れたふりをして。