最近またしても仕事が忙しくなっている。
ちょっと余裕が出てくると、手が空いたから違うプロジェクトにもアサインしてほしいだの、ショットでいいから案件をくれだのと上司に言っているので、まあいうなれば自分のせいでもあるのだが。
暇よりも忙しいほうがずっと楽しいと思ってしまうのは、やはり性分というものなのだろう。

そんななかでも最近、とてもいい本と出会ったので書いておこうと思う。
それは「味覚旬月」というちくま文庫から出ている文庫本で、料理研究家の辰巳芳子さんが書いている。
辰巳さんはお母様も有名な料理研究家である。

料理研究家が書いた本、というと、ちょっと専門的過ぎやしないかと思われるむきもあるだろうけれど。
この「味覚旬月」は、季節の食材…小豆、白味噌、クレソン、夕顔、柚子などから、その食材を活かした食事や料理にまつわる思い出などが書かれている。
はたまた七草粥の本来の意味あいや辰巳家のお花見弁当の話などのエピソードが盛り込まれてある。

「味覚旬月」は決して料理の本などではなく、でも一章を読み終えるごとに、ああ今度はこの料理をつくってみたいなとか、食べてみたいなとか、厚顔ながら私にもつくれそうだなとか、
そんなことどもをすんなりと思えてしまうあたりは、やっぱりすばらしく料理の本なのだった。
使われている写真もどれもこれも鮮やかで、しずる感に満ちている。

そうして私が何よりも感銘を受けたのは、辰巳さんの筆致の美しさである。
辰巳さんの文章を読んでいると、自分の語彙の乏しさ、こころの表現の狭さに気付く。
辰巳さんの文章はとても平易な言葉で綴られている。
だから知らない言葉は殆ど出てこない。
それなのに、そう、そこに書かれている言葉たちを私は知っているはずなのに、とんと書いたこともなければ言ったこともない。
そのどれもがきらきらと美しく豊かで、こういう文章にこそ「行間」というものが存在するのだなと思う。

美しい日本語。

私もこんなふうに美しい言葉を、意識せずに使えるひとになりたい。
せめてこの気持ちだけでも忘れずにいようと思う。