今日は満月。
天体望遠鏡を引っ張り出してお月見をする。

私の家にはずっと以前に神田の文房具屋さんで買った天体望遠鏡がある。
会社の研修のお昼休みにたまたま見つけて、しかも閉店処分セールで9割引で買ったものだ。
気が向いたときに引っ張り出して月や星を眺める。

天体望遠鏡で見る月は、テレビや写真で見るものと全然違う。
クレーターの深淵。真っ暗な空とぴかぴかと明るい月の陰影。
その美しさに息をのむ。

今日も家の前に望遠鏡を引っ張り出して月を見ていたら
私より少し若いくらいの女性が通りかかった。

なんの星が見えるんですか?と彼女はひとなつこく感じのいい笑顔で声をかけてきたので
満月を見てるのよ、見てみる?と天体望遠鏡をすすめた。
小さなレンズごしに大きく見える月。
すごい、すごいきれい!と彼女は連発していて、私は自分がほめられたみたいに嬉しくなる。
そうしてしばらくふたりで月を見る。
名前も知らない見知らぬ感じのいい女の子と。ふたりで。

そういえば高校生のころ、萩原朔太郎の〝月が吠える〟という詩集のなかに好きな一篇があったけれど、あれはなんという詩だったのだろう。
確かにあの頃はとても好きだったはずなのに、いまではまったく思い出せない。

それにしても今日の月はとてもきれい。
もうしばらくしたらまた月夜の散歩に出かけてこよう。