ブーツが欲しい。
洋服とかバッグとか宝飾品とか、そういう身を飾るものにはあまり興味がない私だけれど(本当ですよ)、数年に一度、買い物病にかかる。
それはもう熱病みたいなものなのだ。
かかったら最後、熱が引くまでうかされる。熱が引いたらすべて忘れてけろっとする。そんな感じ。

今年の夏はいろいろあって、3回も熱病にかかった。

その1、友人と行った軽井沢旅行にて。
実は行くまでまったく興味がなかったアウトレットにて急に病に冒され、誰よりも買い物をして友人たちを驚かせる。

その2、プロジェクトが中止になったため、心が折れて。
多忙を極めたプロジェクトが突如中止になり、ぽっきりと心が折れた日。会社のそばのデパートに寄り散財する。色違いの服を何着も買ってしまったあたりが病的。

その3、靴ブーム到来。
なぜか今年は自分の持っている古いサンダルとかブーツとかパンプスを履く気になれない。女性の服飾品のなかで靴はわりと高額なものだと思うのでなるべく心を鬼にしているけれども、それでもどうにも気になって仕方がない。結局、夏にサンダルを数足新調した。そしていよいよ私がもっとも好きなブーツの季節が到来。ブーツの値段はサンダルの比ではないのだが…。
まあ今年以前に服飾品をまともに買ったのが数年前なので許してもらうことにしよう。

ということで、ブーツ。
先日所要で恵比寿駅のアトレで時間つぶしをしていたときのこと。
普段の私なら本屋さんに行くかカフェでお茶を飲むところなのだけれど、熱病にかかったいま、ブーツが見たくてたまらない。
そこで早速、靴を扱っているショップに行く。

とてもかわいらしいライトブラウンのミディアム丈ブーツを見つけた私。
でも同じような色で似たようなブーツは既に持っている。
そうだ、この長さで黒は持っていないから、黒のブーツを試着してみようかな。
逡巡すること5分。やっと店員さんを呼び止める。

すみません、このブーツで黒があったら試着したいのですけれど。

お待ち下さい、とにこやかに店の奥に消えた店員さんは
手ぶらで小走りに帰ってきて嬉しそうに私にこう告げた。

お客さま、ありましたぁ!黒のブーツ。

…。そうですか、ありがとうございます(…でもどうして手ぶらなの?)

私はブーツがあったという報告を受けたかったわけではなく、ブーツがあったら試着したかったんだけど。
ブーツがあったかどうかなんて、そんなことは聞いていないのだ。
でも店員さんはあまりに嬉しそうに私を見つめ続けているだけなので、試着したいのですけれども…ともう一度控えめにいってみた。

あ、試着ですかぁ。と店員さん。

いやこのシチュエイションで試着以外の何があるというのだろう。
とも思ったけれど、きっと世の中にはいろいろなことがあるんだろうと思いやり過ごすことにする。

そうしてやっとのことで持ってきてもらった黒のブーツはやっぱりとてもかわいくて、この秋お買い上げブーツ第1号になったのだった。