鎌倉から熱海は伊豆山の宿、蓬莱へ移動する。

伊豆山の蓬莱はずっと前から泊まってみたかった宿だ。

私はこの手の宿やクラシックホテルがとても好き。
安い宿でももちろん平気だし、現代的でシックなホテルももちろん好きなのだけれど、昔から守り続けているものをきちんと引き継いで、大切に伝えていこうとする姿勢とか、最近建てられた建物にはない設えなどは、やっぱり古い宿ならではなのだ。

さて蓬莱。
私たちが案内していただいたのは、3階の葛城というお部屋。
目の前に大きな山桃の枝葉が茂り、遠くに海がみおろせる、それはそれは素敵なお部屋だった。
畳敷きの大きなお部屋と縁のほかに、次の間も檜のお風呂もついている。
ひろびろとしていてとても気持ちがいい。
床の間には書画があり(不苦者迂智と書いてある)、秋の七草が活けてある。

両親も私もすぐにこのお部屋とお宿が気に入って、話をしたりお風呂に入りに行ったりして過ごす。
食事もとてもおいしいし、目にも美しいし(使われている食材も、器もどれもこれも素晴らしいものだった)、お姐さんがたの対応も行き届いている。
お風呂への行き来は足の悪いかたには少し難儀だろうけれど、2箇所あるお風呂はいずれも余りある良さだった。

蓬莱のコンセプトは、家族的であること、なのだそうだ。
必要以上に襟をただしたりかしこまったりしない。そうすることで、しんからくつろいでいただきたいのだ、とお姐さんはいっていた。家族的に完璧なサービスを提供するということはものすごく大変なことだと思う。
それをひょいとやってのける(ようにみせる)のはさすが蓬莱というところだろう。

修善寺のあさばのような華やぎはないし、京都の俵屋のような凛とした感じとも違うけれど、私はこの蓬莱のあたたかさをとても好きだと思ったし、またきたいなあと思える宿だった。(母などはすっかり気に入ってしまって、今度はいつこようかなんていっている)
そういえば。予約をする際に、父の快気祝いであることを伝えていたら。
夕食の敷紙に見事な達筆で「祝快気」と書かれていた。
女将さんが書いてくださったのだとか。
こういう心遣いはとても嬉しいものだ。
食事が終わるまでまったく気づかずにいたのだけれど、父と母は記念にといって醤油をこぼした敷紙を持ち帰っていた。

そんなふうに蓬莱は、とても素晴らしい宿だった。


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蓬莱の中庭。


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縁側。庭の向こうはには海が見える。