両親と旅行に行ってきた。
父の快気祝いをかねて、鎌倉を案内して熱海で泊まる1泊2日の小旅行。
旅の計画をたてはじめたのは数ヶ月前のこと。
宿は熱海の伊豆山にある蓬莱にする。
旅行が趣味で、最近はちょっといい宿を泊まり歩くことを楽しみにしている両親を下手なところに連れて行けないし、おまけにどこか泊まってみたいところある?と聞いたら、「お母さん、強羅花壇に泊まってみたいわぁ」と無邪気にこたえられてしまったのだ。
(強羅花壇は最低ひとり5万円、高いお部屋だとひとり10万円する)
一瞬遠くの世界に行った私に気づいたのか、母は「あ、でも無理しないでいいからね」と慌てて付け加えていたけれど。
ともあれ。やっぱり満足のいく旅になるといいなと、ちょっと頑張って蓬莱に宿をとった。
朝。新幹線のホームで両親を迎え、そのまま鎌倉へ向かう。
以前も鎌倉を案内したことがあるし、両親もそれとは別に何度か訪れているので、お寺選びも難儀したけれど、ひっそりとした山寺が好きなふたりに、今回は浄智寺と、前回は時間が遅くて見せられなかった報国寺の竹庭を中心に案内しようと決める。
浄智寺は北鎌倉にある古いお寺。
苔むした石の階段をあがる、とても雰囲気のあるお寺だ。
私はふだんあまり遺跡やお寺の案内書(入り口にある看板とか)をあまり読まないのだけれど、その日はなんとなくそれが目に入った。
そこには浄智寺の由来とともに、ここで眠っている澁澤龍彦をはじめとする何人かの有名なかたの名前が書いてある。
ねえねえ、ここ、澁澤龍彦のお墓があるよ。
と両親に伝えたら、ふたりともなんとなく無言になった。
どうしたの?と聞いたら、
まず母が、昨日テレビを見ていたらたまたま矢川澄子さんのことをやっていて(澁澤龍彦と交友があった)、ふとるちゃんの話をしていたとこだったんだ、ふとるちゃんは澁澤龍彦が大好きだったから。といって、
そのあと父が、いや、さっき、お父さんのところに電話かかってきてたでしょう、あれふとるちゃんのお母さんだったんだよ。といった。
ふとるちゃんというのは私の両親の高校のときからの親友で、しょっちゅううちに遊びにきていた画家のおじさまだ。
子どもが好きなおじさまで、私も兄弟たちもとてもかわいがってもらった。
15年ほど前に火事で亡くなって、父はその遺作集を自費出版したし、私はその作品集や版画を持っている。
偶然だね、偶然じゃないかもしれないね、といいながら
3人で澁澤龍彦のお墓に手をあわせる。
澁澤龍彦と、こころのなかでふとるさんにも。
その後、たまたま近くにあった東慶寺(駆け込み・縁切寺として有名。そんなところに行っていいのかと思ったけど両親にはなんら問題ないらしい)に行ってから、山門のなかにある喫茶店でコーヒーとケーキをいただく。
それから報国寺へ。
報国寺は鎌倉のなかで瑞泉寺・浄智寺と並ぶいっとう好きなお寺。
竹のお庭をたっぷりと眺め、
いい頃合になったので、鎌倉をあとにする。
報国寺の竹の庭。