ボリショイサーカスの馬が逃げた。
一般道を800メートルほど暴走したが、自転車で追いかけてきた調教師にとりおさえらえた。
ニュースサイトを見ていたらそんな記事を見つけた。
ボリショイサーカスのこと。
私はほんの小さな頃…確か3歳くらいから、長い間クラシック・バレエを習っていた。
毎週2回のバレエ教室。
股関節脱臼を患ってうまれてきて、生後2年間ずっとギプスをはめていたらしい私の足をきちんと矯正したいという母心と、あとはゲイジュツが好きな母の趣味によるところが大きいと思う。
そうして悲しいかな私の足は股関節脱臼の影響かどうか、ほかの生徒さんに比べたら全然開かなかった。
un deux trois,un deux trois,
先生の手拍子と声が響く教室が、だから私はときどき疎ましい。
みんなにやすやすとできることがどんなに練習しても自分にはできないから。
いつの頃からか、私の家の食卓には毎晩酢の物が並ぶようになった。
ボリショイサーカスの人たちは毎日酢の物を食べてからだを柔らかくしているんだって。
だからナオも毎日酢の物を食べなさい、からだが柔らかくなるから。
というのが母の言い分だったのだけれど、
私はもともと酢の物が苦手だったのに、毎晩食べきらないとテーブルからおろしてもらえなかったから、それでますます酢の物が嫌いになった。
いまもそんなに得意ではない。
だいたい私が習っているのはバレエであってサーカスではないのに。
それにしても本当にボリショイサーカスの人は毎晩酢の物を食べていたのだろうか。
どこかで聞いてきた情報を母は鵜呑みにしただけのような気もするのだけれど(私の母のいうことはわりとマユツバものが多いのだ)、
でも私の足に後遺症が残らなかったのは、バレエともしかしたら酢の物のおかげもあるだろう。
それはやっぱり感謝しないといけない。
あの頃は毎晩酢の物で・・・といっても、母はすっかりと忘れていて
そんなことあったっけ?なんていうに違いないのだけれど。