いしいしんじさんの〝ぶらんこ乗り〟を読んでいる。

声を失ってどうぶつと話ができてぶらんこに乗るのが上手な年の離れた弟と姉の日々を描く、

やさしく懐かしくかなしいお話だ。


私にも年の離れた弟がいるから余計にどきどきとしながら読んでいる。

こころやさしかった幼い弟の日常と、本のなかの〝弟〟はとてもよく似ている。


私の弟もたぶん、どうぶつと話ができたと思う。

本人はもう憶えていないだろうけれど。

庭の犬小屋でお昼寝をして、猫やチャボと遊び、うさぎやモルモットをぎゅうっと抱きしめていた。

どうぶつたちは弟のそばにいつだって集まっていた。不思議と。

近所のワルガキたちが手持ち花火で焦がした黄金虫を助けようとちいさな手のひらで握りしめ続けて、ひどい火傷を負っていた。

こころやさしい、ちいさなかわいい弟。


ところで。この〝ぶらんこ乗り〟のなかには不思議などうぶつの生態がたくさん出てくる。


ペンギンのおしくらまんじゅうの話。

氷の端っこに追いやられた弱いペンキンは、水に落ちたところでトドにねらわれる。

お腹いっぱいになったトドが遠くに去ったところで、強いペンギンが水に潜って魚をとる。


ユーカリ中毒のコアラの話。

ユーカリには毒があるから、コアラは麻薬中毒みたいなもの。おまけにユーカリから降りたコアラはすごくすばしこく地面を走る。

ラリったコアラが猛ダッシュ。


ナマケモノの筋肉の話。

ナマケモノは10日に1度くらい排泄のため地面に降りる。でも筋肉が殆どないからものすごく時間がかかる匍匐前進をする。

ナマケモノの天敵はワシで、ワシがくるとナマケモノは木の枝をぱっと離す。地面にどさりと落ちたナマケモノは当然骨折するけれど(筋肉がないから回復は早い)、死ぬことに比べると骨折なんて大した問題ではない。


etc.etc.


これはいしいしんじさんの世界なのだろうか。

それともほんとうにどうぶつの生態なのだろうか。


なんだかいろいろな意味でどきどきとする物語なのだ。この本は。

それでね、それでね、ペンギンはね、コアラはね、猿は、象は、ナマケモノは、と報告していたら

いったいなんの本を読んでいるのと笑われた。


ぶらんこ乗りとどうぶつの話。