夏の日ざしが戻ってきた。
やっぱり晴れている日は嬉しい。


相変わらず数件のプロジェクトを抱えているため、どうにもこうにも首がまわらない。
夜な夜な(というほどでもないけれど)おいしいものを食べに行っていたころが嘘のようだ。
おかげで銀行の残高が全然減らない。これもまた嘘のようだ。


あいまを縫って本だけは読んでいる。
月曜日はよしもとばななさんの〝デッドエンドの思い出〟を、
火曜日は杉浦日向子さんの〝4時のオヤツ〟を、
水曜日は金原ひとみさんの〝蛇にピアス〟を、
それぞれ読む。
仕事で頭がいっぱいのときは、さらりと読める本がいい。
だから最近読んでいるのは読むのにストレスがかからなそうだと思われる本。


〝蛇にピアス〟は、遅めのランチタイムのあいだに読んだ。
芥川賞をダブル受賞したうちの一作で、以前ずいぶんと話題になった作品だ。

食事をしながら読むものではないと激しく後悔したものの、読み始めたら最後まで一気に読んでしまった。

作品の質などに触れるのはあまりにおこがましいのでやめておくけれど、
この作品の一行一行のあいだには、ものすごく濃密で湿度が高いものが隙間なくつまっていた。

うまくいえなのだけれど。
まるでコテで塗り固められた土壁みたい。
みっちりしているんだけれど、不用意にさわるとぱらぱらと崩れてきそうな。


読み終えたときには、胸のなかになにかがいっぱい詰まってしまった。
ちいさなつぶつぶがいっぱいあって、その隙間がじわじわと埋められていく感じ。
私はわりとこんなふうに、そのときどき触れたものの空気に支配されてしまうところがある。
いっぱいに詰まってしまったこころを抱えているのはとても苦しいものだ。
そう考えるとやっぱりどうも仕事のあいまに読むのには適さない種類の本なのだった。


それでもその夜、とても嬉しいことがあったので、
重苦しいこころは幸いとまたもとのこころに戻る。
ぽわっと隙間がたくさんあって、やわらかな風が通り抜けられるような。