恋人とけんかをした。
きっかけはささいなことだったけれど、結構大規模なけんかに発展して(発展するだろうという予感はあった)、
これからの人生とか…仕事とか結婚するのかとかしないのかとか…、お互いの、あるいは一緒にいることの価値とか、そういう話にまで及んだ。
すごく嫌なことや傷つくこともいわれたし、私もいったと思う。


でもお互いの気持ちをきちんと話して、
やっぱりいまはふたりとも一緒にいたいし、これからも一緒にいたいし、
そういう気持ちがこの先もずっと続いたら、

それは結婚するということになるね、
だから一緒にがんばっていこう、ということになった。


ときどきこういうけんかをする。
前に進んでいるのかいないのかはよくわからない。

あともどりはしていない。それだけは確かだ。


仲なおりをした夕方に、風鈴市に行く。
川崎大師の風鈴市。
今度の週末は風鈴市に行きたいなといっていたのを

恋人は憶えていたらしい。


初詣にも、ちょっとしたお祭りにも川崎大師に行くから、
お大師さまへの道のりはふたりともそろそろなじみになった。
駅を出てから続く商店街。海苔屋。天丼屋。お饅頭屋。
老舗の蕎麦屋さんの角を曲がると飴屋さんが続く参道に出る。


境内の屋台で焼きそばと串焼きを食べて、
何百もの風鈴をひとつひとつ眺める。
ちりちりと鳴るたくさんの風鈴。おばちゃんたちの呼び込みの声。
お土産にひとつ買おうといって恋人と
いっとうきれいな音がして、見た目もかわいらしい風鈴をえらぶ。

透明のガラスに薄い紫色の朝顔の柄。


恋人の家に風鈴をつるす。
とてもきれいで嬉しくてちりちりちりちりと鳴らしていたら。
ほんまええ音やなあこれがいちばんきれいやなあと恋人がいう。
そんなふうにしてまたひとつ、一緒の夜が過ぎていく。